最終更新日:2024-02-16
2024年1月24日水曜日、人が食べてその年一番“甘いお米”を選ぶ、八代目儀兵衛の「お米番付 第10回記念大会」が東京銀座にて執り行われた。開催10回目節目となる今回は、例年の表彰式の後にトークセッションも開催され、お米の未来について考える時間を持った。トークセッション前半では農林水産省副大臣の鈴木憲和さんと橋本儀兵衛が、「お米業界の課題と未来」というテーマで意見交換を行った。
※トークセッション後半 新規就農生産者×お米番付歴代受賞生産者はこちら
良食味米のために、異常気象とどう立ち向かうか
今年は夏の異常気象による、稲の高温障害が全国的に問題となった。高温に比較的強い品種も影響を受け、全国の1等米比率は61.2%(2023年11月末時点)という結果だった。北海道ですら今年は連続的な夏日を記録するなど、水稲栽培における地球温暖化の影響は来年以降も深刻化する可能性が高い。
これに対し、橋本儀兵衛は「お米の品質低下によるお米離れは、特に避けていきたいです。(これまでお米の品種人気は)コシヒカリ一辺倒で来ましたが、それも限界が来たのではないかと感じています。」と語る。これまでは日本のお米業界は、高温に強く食味のいいお米に改良をしていくことで品質保持を行うことが多かった。しかしそれだけでは対策しきれない局面が、もう目前まで差し迫っている。
これに対し、鈴木先生は「肥料の有無で食味も左右されるため、生産者さんの工夫によってまだ余地があるのかもしれないと考えています。」と話す。これからのお米のおいしさを守る、その主導権を握るのは生産者さんたちなのではと分析する。
良食味米とは一体何か?
トークセッションで橋本儀兵衛は「最終審査の審査員である『祇園さゝ木』店主 佐々木浩さんから以前教えていただいた『(お米の)うまい”は甘い”んや』という言葉が忘れられなかったんです」と振り返る。この“甘いお米”というのは言葉を超えて五感で美味しさを感じるお米のことで、言い換えれば赤ちゃんが食べてもおかわりするようなごはんのことを指す。だからこそ、これまで「お米番付」では一次審査から食味計を一切使用せず、全て人による実食で審査を行ってきた。
鈴木先生も「お米の感動は、食味計などで測った時に数値で高い評価が出るだけでは表現しきれない、もっと深いところにあります。炊飯した土鍋の蓋を開けた時の感動がすでに、実際に食べた時のおいしさにつながっていると思うんです。ここまで深い感動が生まれる穀物は日本のお米くらいではないかと私は思っています。」と日本のお米への愛を語った。お米のおいしさは言葉を超えたもっと深いところにあり、それは人が実際に食べる、という体験でしか生まれない感動から来る。このかけがえのないお米を中心とした日本の食文化にもっと目を向けて次世代に継承していく使命が、いま日本に生きる私たちにはあるのかもしれない。
減り続けるお米の消費量、生き残るためには
日本のお米の国内消費量は2020年時点で約900万トンだったが、2023年には680万トンに減少している。お米の消費量減少の原因として、若年層の米離れが挙げられることも多いが、実はそれだけではない。手軽に食べることができるパンを高齢者の方が選びがちなことも数字に影響している。
日本の全世代に、お米がおいしいということを改めて見直してもらい、いかに食べてもらうか。これが、深刻化する国内消費量の減少を食い止める重要な鍵となってくる。そのための対策の一つとして鈴木先生は、「生産者の皆さんの努力によって食味は変わっていくと感じているので、私たち政府はそれに応じた取り組み、例えば気候変動に対する政策も今後行っていきたいと考えています。」と明言した。
海外の方にお米のおいしさを伝えていくには
先ほどの話にも出たように、お米のおいしさは言葉を超えたもっと深いところにあり、それは人が実際に食べる、という体験でしか生まれない感動から来る。国内の人口減少もある中で消費者を増やしていくためには、この繊細なお米のおいしさを海外にも伝えていく必要がある。
「私は海外出張の際に、毎回スーパーの米の棚を見るようにしているのですが、パッケージの多くには「〇〇県産コシヒカリ」と表記されていることが多いです。産地が書いてあっても『それがどのようにおいしいのか』ということがそれでは分からないんですよね。(海外で)販売する際、おいしさの指標を伝えていかなくてはいけないと思います」と鈴木先生は話す。
また日本のお米が海外で評価されるためには、おいしいお米を作るだけでなく、海外の有機栽培のマーケットに追いつく必要もある。日本のオーガニック市場は現在、海外に比べて小規模だが、オーガニック作物の生産量を増やしていこうとする動きが日本政府を中心にある。鈴木先生は「果実や野菜に比べて、お米は有機栽培のハードルが一番低いと私は考えています。生産者さんに頼るだけではなく、おいしいオーガニック米を消費するマーケットを作っていくことも重要。例えば“オーガニック給食”などが普及するよう補助を行っていきたいと考えています。」と生産側だけでなくそれを消費する市場にも目を向ける。
また鈴木先生は八代目儀兵衛が行う「お米のブレンドが食味のおいしさを底上げするのではと私は考えています」と、語った。八代目儀兵衛のブレンドによって生まれるのは、本当においしいお米同士の相乗効果による深みのある味わいだ。これまでブレンド米には、不作の年に海外のお米と混ぜるという悪印象が強く、産地や品種、銘柄でおいしさを評価する風潮がはあった。しかし昨年、株式会社セブン‐イレブン・ジャパン全国各店舗にて『八代目儀兵衛監修おにぎり』が発売されたことにより、そのイメージも変わりつつある。おいしいお米に対する国内のこの変化について橋本儀兵衛は、海外にも受け入れてもらえる兆しではないかと考えている。実際、昨年ニューヨークで商談をした際にも、八代目儀兵衛のブレンド米は現地のミシュランのお店から高い評価をいただいたそうだ。「現在、日本は円安で一人負け状態となってしまっていますが、日本産米のおいしさを伝えることでそれも打開できるかもしれないと思っています」と橋本儀兵衛。全世界に日本のお米のおいしさを伝えていくことは、日本経済の改善にもつながるかもしれない。
お米とは何か、トークセッション後にそれぞれが目指すところは
縄文時代後期に日本にお米が伝わり、弥生時代に稲作が普及し、日本のおいしいお米はこの列島で約2000年かけて進化を続けてきた。“最も日本で作るのに適している作物”として、今日までお米が継承されてきたのは、代々稲作をしてきた先人たちの知恵によって育てられた土壌があるから。この日本の歴史の賜物は、例え海外で真似しようと試みても一朝一夕にはできない。今回、鈴木先生と橋本儀兵衛が「お米業界の課題と未来」について考えたことによって、おいしいお米は日本の勝ち筋の一つであることが見えてきた。
最後に、今後について鈴木先生は「さらに日本のおいしいお米の価値をもっと評価してもらえるような米政策を、これからしていきたいです」と言葉を残し、一方で橋本儀兵衛は「若い方にも『お米がうまいから食ってるんだ!』という人が増えるように、これからも歩んでいきたいです。」と決意を述べた。
橋本儀兵衛が27年前に継いだ家業のお米屋。初めはお米という差別化が図りにくい商材をどう販売していくかと考えて、現在の八代目儀兵衛が生まれた。そこから生産者さんをはじめとした多くのお米業界関係者に支えられ、今年は「お米番付」も10回目を迎えることができた。しかし今もなお、消費量及び生産量の減少、異常気象の影響によるお米の品質問題などお米業界を取り巻く問題は山積みだ。そんな中で今回「お米番付 第10回記念大会」トークセッションにて、立場や視点の違った意見が混じり合い、“それぞれの立場から何ができるか”というヒントを見つけることができた。最後には会場全員が日本のお米の未来に差し込む希望の光を見い出し、トークセッション前半が終了した。