おいしいお米を“普通”に食べられる世の中にー「お米番付第11回大会」優秀賞:小嶋秀典さん 品種:コシヒカリ

おいしいお米を“普通”に食べられる世の中にー「お米番付第11回大会」優秀賞:小嶋秀典さん 品種:コシヒカリ

最終更新日:2025-03-28

食味分析計を一切使わずに「甘いお米」を発掘する異色の食味コンテストとして、11回目を迎えた「お米番付」。今回、入賞を果たしたのは長野県飯山市で「コシヒカリ」を25年間育て続ける小嶋秀典さんでした。

小嶋さんのお米づくりのこだわりは、「おいしいお米を“普通”に食べることができる日常を消費者に届けること」。今回は、その“普通”という言葉に込められた思いと、日本のお米を代表する品種「コシヒカリ」の栽培について、昨今の異常気象を踏まえた今後の予想を、プロの視点から語っていただきました。

おいしいことが“普通”。小嶋さんの「コシヒカリ」

江戸時代より前から100年以上続く、小嶋さんの家業のお米づくり。ご自身も、幼い頃から田植えや稲刈りを手伝ったそうだ。そして40歳頃で本格的に家業を継いで以来、25年にわたり「コシヒカリ」を栽培してきた。

長野県飯山市はもともと、夏の昼夜の寒暖差が大きく、「コシヒカリ」の栽培に適した気候だった。この恵まれた地域の特性を活かしながら、小嶋さんはこれまでお米と向き合ってきた。そのため小嶋さんの「コシヒカリ」は、以前からおいしいことで有名。全部で2.5ヘクタールある小嶋さんの田んぼで収穫されるお米の大半は、古くからお付き合いのある個人のお客さんが毎年購入してくれるのだそう。リピーターさんにとって、小嶋さんの「コシヒカリ」が毎年おいしいことはもはや“普通”のこと。「おいしいね」という言葉は日常的にお客さんからいただいているため、今回の「お米番付第11回大会」の受賞をご家族に報告された際も、特段の驚きの反応はなかったそうだ。

“普通”の価格で、毎日食べられるお米を

近年、上がり続けるお米の価格。そんな中でも小嶋さんは、リピーターのお客さんにこの“普通”を届け続けるため、可能な限り価格を上げないようにしている。

「食べ物が高すぎても、安すぎてもいけない。キャベツや白菜が1個1,000円するような状況はおかしいでしょう?お米も同じです。食生活の基本となるものだからこそ、食べる人にとって無理のない価格で提供し続けたい。“普通”の価格で、毎日続けられることが大切だと思うんです」と、農業資材や燃料費の高騰が続くなかでも、価格を大きく上げるつもりはないそうだ。

化学肥料不使用が“普通”。特別な名前はいらない

小嶋さんにおいしさの秘訣を聞いてみた。すると「私のお米づくりは大して特別なことはしていないですよ。お米は自然が育てるものだから、人間はそれを手助けするだけなんです」と言う。

化学肥料は使わないし、除草剤も必要最低限に抑えているそうだ。元肥には有機質肥料を使用し、出穂前にはマグネシウム系の肥料を追肥することで、光合成を活発にさせる。収穫後には稲藁を田んぼに戻して土づくりを行うなど、自然のあるがままのお米づくりを実現するために、手間ひまを惜しまない。

除草剤の使用も最低限に抑えており、通常4~5回使用するところを2回までに減らしているそうだ。「除草剤は不思議なものです。草は枯れるのに、稲は枯れない。それを考えたら、できるだけ使わない方が良いと思うんです」と話す。

ここまで手の込んだお米づくりをされているが、小嶋さんはあえて「特別栽培米」などの名称を付けない。「自然と調和してつくることが、本来の“普通”だと思っているから、特別な名前を付ける必要はない。メジャーリーグの大谷翔平選手も自分はこれだけ練習した、と周囲には言わないでしょう」とそこにはプロならではのこだわりが感じられる。

「コシヒカリ」のプロが語る、最後の時代

これまで「コシヒカリ」一本でその道を極めてきた小嶋さんだが、今後もこの品種を栽培していくかどうかは検討しているそうだ。

その理由のひとつは、地球温暖化の深刻化。近年は夏の猛暑日は増え、夜間に気温が下がらない日も増え、品質に影響が出始めている。「昨年は猛暑日が1日しかなかったので、比較的恵まれた年でしたが、それでも気温の高さを肌で感じました」と振り返る。

さらに、水の確保も大きな課題となっている。飯山市は山間部に位置し、これまでは山の貯め池や用水を利用して田んぼに水を供給していた。しかし、10年前に新幹線のトンネルが開通したことで地下水の流れが変わり、水の確保が難しくなったそうだ。「トンネルができたことで、地下水が抜けてしまい、かつてのように湧いてこなくなったんです」と小嶋さんは説明する。現在は山からの貯め池の水を大切に活用して、お米づくりを行う。田植え前にはほぼ雪解け水がなくなり、その後は雨頼みとなってしまう。そのため、雨が少ない年は栽培が本当に難しいのだそう。

「『コシヒカリ』一辺倒の時代はもう終わりだと思いますよ」とこれからの環境に合った品種を探していくことも視野に入れ始めている。今後はコシヒカリと比べて暑さに強い「ゆうだい21」の試験栽培も始める予定なのだそう。

おいしいお米づくりは「自己満足」。これからの歩み

小嶋さんは、謙遜してご自身のことを「もう引退間近の年齢なので…」と話されるが、その一方で、これからもおいしいお米づくりをするための計画を進めておられる。たとえば最近は、秋起こしの計画を立てているそうだ。

秋起こしは、秋のうちに稲藁を田に戻し、冬の間にじっくりと土づくりを行う方法。寒冷地では土壌が冬の間に凍結するため、春になってから土づくりをするのが一般的だが、これを秋に行うことで土壌の微生物の活動がより活発になる。

「農業雑誌を読んで知った方法ですが、地域の生産法人とも情報交換しながら取り組んでいきたいと思っています」と、新しい挑戦について語る小嶋さんからは、お米づくりを心から楽しんでおられることが伝わってきた。

小嶋さんにとって、お米を作ることは生業であり、それでいて心から楽しめる興味の一つでもある。「結局のところ、自己満足なんですよ。おいしいお米を作りたいという気持ちがあるから続けているだけなんです」と笑う。

「どうすればお客さんに“普通”を届けられるか」を考えながら、丁寧に育てたお米を適正な価格で提供し続けることは、小嶋さんにとって特別なことではなく、ごく当たり前のこと。そんな姿勢からは、引退を考える人というよりも、これからも先を見据えてお米づくりに向き合う人のように感じられた。

2025年4月5日(土)から4月6日(日)までの2日間、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」では、小嶋さんの「コシヒカリ」が提供されます。小嶋さんのこだわりの詰まったお米をぜひご賞味ください。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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