アフロのスター選手が発信する、対話の先に生まれる輝きー「お米番付第11回大会」入賞:奥村知己さん 品種:ハツシモ

アフロのスター選手が発信する、対話の先に生まれる輝きー「お米番付第11回大会」入賞:奥村知己さん 品種:ハツシモ

最終更新日:2025-06-25

成分分析計を使わず、審査員の五感で選び抜かれる「お米番付第11回大会」で入賞を果たしたのは、岐阜県岐阜市で「ハツシモ」を育てる奥村知己さんでした。今回で受賞3度目となる彼のトレードマークは、遠くからでもひと目で分かるアフロ姿。常に周囲から注目される奥村さんが大切にしているのは、自然との共存によって生まれたお米本来の味わいや、対話を通じて生まれる人との信頼関係。多くの人にまた食べたいと思わせる、奥村さんの「ハツシモ」の内側に潜む輝きに迫ります。

■ピカリと光る、お米の“マイナースポーツ”的存在「ハツシモ」

「『お米番付』での受賞は、僕にとってご褒美みたいなもんです」そう言って、くしゃっと笑顔を見せる奥村さん。これまでは第3回、第6回にて受賞した。「この品種は連続で取れるような品種じゃないと思っています」と、ご自身で分析する。

岐阜県で古くから愛される晩生品種「ハツシモ」は粒が大きく、お米特有の粘りよりも軽やかな食感が持ち味。そのため、万人受けする品種と比べて注目を浴びにくい一面がある。そんな中でも今回受賞した奥村さんの「ハツシモ」は、さっぱりとした味わいながらも、その特長がピカリと輝くお米として、審査員の五感を通じて高く評価された。

「オリンピックでいうところの華のあるスポーツと、そうじゃないスポーツがあるでしょう?『ハツシモ』は、どこか“マイナースポーツ”的存在だと僕は思っています。でも時折、スポットが当たるときがある。今回はそのタイミングが来たのかなと」

普段はあまり注目されないスポーツも、オリンピックなどで活躍する人がいれば注目を浴びる。「お米番付」で複数回受賞してきた奥村さんは、そんな“マイナースポーツ”のスター選手なのかもしれない。

■代名詞のアフロ姿で自己プロデュース

今年、大健闘の末に受賞を果たした奥村さんが「お米番付」に初めて応募したのは第3回大会。きっかけは、小規模事業者持続化補助金の申請に必要なエントリーシートだった。

「いま取り組んでいることを書く欄があったんです。『コンテストにも出ています』って書きたくて、偶然見つけて出したのが『お米番付』。初エントリーでまさか受賞するとは思わなくて当時は驚きました」

それが奥村さんのお米づくりが変わる出会いになった。しかし続く第4回、第5回では最終審査まで残ることができなかった。「一発屋で終わりたくない」と悔しさを胸に、その後も挑戦を続け、第6回で再び受賞した。

その頃から、奥村さんのトレードマークとなったのがアフロ姿。「アフロって、後ろ姿でも分かるから助かるんです。新聞記事をパラパラとめくる時にも、見つけてもらいやすい」とご本人も語る。おいしいお米をつくる生産者がたくさん集う「お米番付」受賞後も見据え、戦略的に自己プロデュースをする。自分のお米をより多くの人に手に取ってもらうために始めた、インパクト重視のアフロヘアが、今では「奥村さんのお米」の代名詞になっている。

■ 自然との“等価交換”で、今年の実りをいただく

奥村さんがお米づくりで最も大切にしているのは、田んぼを取り巻く環境の“美しさ”だ。おいしいお米が育つには、人間の手だけではなく、周囲の景色や風の通り道、きらめく水面といった美しい自然も欠かせない。そこで奥村さんは、機械や肥料に頼るのではなく、自然と対話をしながらお米づくりを行っている。

「お米番付」で初めて受賞した頃は「自分のお米をたくさんの人に食べてほしい」と思い、おいしさ一筋でお米づくりを行っていた。しかし人間がおいしく感じるために過剰に肥料や農薬を使う度に、土壌微生物の多様性を奪ってしまうのではないか、とジレンマを感じるようになっていったそうだ。そんな気持ちを抱えながら、お客さんから好みを聞いてお米づくりをしていく中で「本当に食べた人の心を動かすお米は、人間の『おいしいお米を収穫したい』という私利私欲によって実ったお米ではなく、自然との共存によって生まれるのかもしれない」と感じるようになった奥村さん。お米が育つ環境の“美しさ”に目を向けるようになってからは、無農薬栽培の面積を年々増やしていき、今では全体で約10ヘクタールある農地のうちの半分もの面積を自然栽培や無農薬栽培を行うようになった。

奥村さんはお米づくりをする上で、自然との“等価交換”を意識されている。自然を力づくで押さえ込むのでなく、彼らと共存する田んぼをつくる。虫も草も、役割がある存在として尊重するスタイルだ。草を刈る際には「ごめんね」と語りかける。「人間の都合で押さえつけすぎると、自然が反発する気がする。自然とは勝ち負けじゃなくて“等価交換”。僕たちはちっぽけだから」と笑う。

収穫量が少なかったと周囲が言う年も、奥村さんのお米は不思議と収穫量が多かったそうだ。「この子たちは、自然と対応できるんだよ、やっぱり。未熟米は一部の方からは嫌われがちだけれど、本当はそれすら『今年の実り』と受け止めてあげたい」と話す姿からは、稲を我が子のように愛していることが伝わってくる。

■ 一人ひとりと向き合う“対話型”販売

このように自然と対話してお米づくりをする奥村さんだが、収穫したお米を販売する際には人との対話を大切にしている。お客さんとのコミュニケーションは精米度合の相談から始まり、家族構成、食卓の好みに至るまで雑談を交えながら、お客さん一人ひとりに合わせた販売を行っている。「精米歩合や品種だけじゃなくて、その人がどう食べるか、どんな暮らしをしてるか。それを聞いて、お米を提案したい」と語る。

相手の声に耳を傾け、手渡しで届ける奥村さんのお米。スーパーマーケットやオンラインで、生産者の顔が見えなくてもお米が購入できるようになったこの時代に、奥村さんは敢えて、こうした“対話型”のやり取りを大切にしている。

お客さんの好みを聞いて提案するお米が、時に自身の「ハツシモ」だけに限らないこともある。「おいしいごはんのある食卓が実現すれば、それでいい」と、他の生産者のお米を紹介することもある。このように営利目的を超えた関係性が、奥村さんを取り巻くコミュニティを築いている。

■日々の行動の後に、おいしさがついてくる

奥村さんが育てる「ハツシモ」は、あっさりと食べやすく、日々の食生活に馴染んでくれる。引っ越しをして岐阜県を離れたお客さんの中には、記憶の中でピカリと輝く奥村さんのお米の味わいを思い出し、お取り寄せする人もいるそうだ。このように多くのお客さんにとって帰ってきたくなる場所となるのは、奥村さんが一人ひとりとの対話を大切に積み重ねてきたからこそだろう。

「僕は自分にめちゃくちゃ甘いから、(この対話を)怠けてしまいそうになることもある。でも真面目にやってたら、お客さんはついてきてくれる気がする。だからこそ、裏切りたくない。多分おいしさって、後からついてくるものなんです」と語る。お米づくりや販売に限らず、日々の挨拶やゴミ拾い、そういった周囲との関わりも大切にすることで、自身を律する。地元の小学校の食育授業での講話も行っているそうだ。「お米づくりは、自分の行いを正そうと思い出させてくれる存在。僕にとっての天職なのかもしれません」と語る。

お米のおいしさだけでなく、生産者の人柄や、関わる全てとの対話の中に宿るおいしさ。奥村さんはそれを自ら実践することで、社会に発信している。

2025年7月5日(土)から6日(日)の2日間、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、奥村知己さんの「ハツシモ」が提供されます。さっぱりとした味わいの中に、ピカリと輝くおいしさがある、奥村さんの「ハツシモ」。その際立つ個性を存分に引き出せるよう、当店ならではの精米と炊飯技術で、粒立ちの美しさとしっかりとした食感を最大限に引き出しました。ぜひ心ゆくまで味わっていただけますと幸いです。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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