“食の価値を高めるお米”をつくる「お米番付」第12回大会最優秀賞:黒澤拓真さん 品種:「つや姫」

“食の価値を高めるお米”をつくる「お米番付」第12回大会最優秀賞:黒澤拓真さん 品種:「つや姫」

最終更新日:2026-06-05

人の五感で「甘い」と感じるお米を選ぶ「お米番付」。第12回大会で最優秀賞に輝いたのは、山形県南陽市で栽培された黒澤拓真さんの「つや姫」だった。審査委員長を務める橋本儀兵衛は「食べた時に『つや姫』だと思わなかった」と驚く。炊飯器を開けた瞬間に立ち上る、食欲をそそる香り。思わずお腹が空いてしまう、「つや姫」の真価を改めて教えてくれるような、完成度の高いお米だ。人々に感動を与えるお米を生み出した黒澤さんに、最優秀賞までの道のりを伺ってきた。

父から息子へ。32歳で掴んだ頂点

黒澤さんは「お米番付」第9回大会で「夢ごこち」という品種で優秀賞を受賞している。そこから今年は最優秀賞へ。黒澤さんは「30歳までにコンテストで一番を取りたい」という目標を長年掲げてきた。2年遅れの32歳での達成となったが、最優秀賞として名前を呼ばれた時は本当に嬉しかったと授賞式を振り返る。

2000年に黒澤さんの父である現社長が、別のお米のコンクールで最優秀賞を受賞している。それから26年。息子である黒澤さんが再び頂点に立った。黒澤ファームのお米づくりを全面的に任されてから3年目での今回の受賞は「後継者に任せても品質を維持できている」という何よりの証明となった。

数値では測れない”香り”と”甘さ”を求めて

黒澤さんがこの3年間、「お米番付」に出品し続けてきた理由を伺うと「おいしさは数字に表すことができないところにもあると思っている」からなのだそう。

多くのコンテストでは、食味分析計を活用し、おいしさを数値で測定する。しかし、数値が高くても実際に食べておいしいとは限らない。特に、今回の「お米番付」で最優秀賞を受賞した黒澤さんの「つや姫」は、炊き上がった瞬間に立ち上る香りが特別。審査員によると、絹のように滑らかな舌触りと、際立つ粒感。噛むほどに強い甘みが香りと共に広がるが、最後は驚くほど切れ味よく、さっぱりとした印象を残した非常に完成度の高いお米だったそうだ。

黒澤ファームでは栽培方法を、特別栽培と有機栽培に限定している。「お米番付」が掲げる7つの食味基準、「香り」「ツヤ」「白さ」「食感」「粘り」「甘さ」「喉越し」のうち、特に「香り」と「甘さ」を高めるため、3年前から化学肥料の割合を減らし、有機肥料の使用量を増やしてきた。「有機肥料を投入した方が香りも甘みも乗ってくる」という仲間の生産者からの声を参考にしたという。

出品された全てのお米を炊飯し、人の五感で評価する「お米番付」は、黒澤さんにとって自身のお米づくりが間違っていなかったかを確認できる大切な機会となっている。

山々に囲まれた盆地が育む、透き通るお米

黒澤ファームがある山形県南陽市は、置賜盆地に位置している。標高1,000〜2,000メートルの山々に360度囲まれ、海抜は約250メートル。平地と比べて涼しく、昼夜の寒暖差が大きい。

この寒暖差こそが、おいしいお米づくりの鍵となっている。夜間に気温が下がると稲が休む時間が生まれ、栄養をしっかりとお米に届けられるからだ。高温障害も避けられるため、この環境は大きなアドバンテージになっている。高温障害を受けたお米は中がスカスカになり、光が乱反射して白く見える。一方で黒澤さんは、お米の粒がパンパンに張っており、見た目は透き通っていて、触るとサラサラしている状態をいつも目指しているのだそう。

今回最優秀賞を受賞した「つや姫」を栽培した田んぼは、4市町村にまたがる30ヘクタールの農地のうち、粘土寄りの砂地に位置する。今回の令和7年産米は、厳しい気候条件にもかかわらず95%が一等米を獲得した。

逆境から生まれた、新たな気づき

令和7年産のお米づくりは、決して順風満帆ではなかった。極端な暑さこそなかったものの、東北地方は7月にほとんど雨が降らず、水をかけられない時期もあったそうだ。

しかし黒澤さんは、この逆境の中で一つの発見をした。通常、田んぼでは水を溜めた状態が2ヶ月ほど続く。ところが今年は雨不足で田んぼの土にひび割れが起こり、物理的に酸素が入ったことで、根の活力や葉の元気が増したように感じたという。「水は必要だが、酸素も同じくらい必要なのではないか」そんな仮説が生まれた。今年はこれを実証する年にしたいと考えているそうだ。

高温障害への対策にも、2年ほど前から本格的に取り組んでいる。田植えの時期を遅らせ、通常よりも深く田んぼを耕すことで、温度の影響を受けにくい層まで根を張らせる。さらにケイ素を投入し、葉や茎、籾殻の表面を硬くすることで、夏の暑さに強い稲を育てているそうだ。このように逆境の中でも試行錯誤を重ね、その中で新たな発見をしていくことで、黒澤さんの最高においしい「つや姫」が生まれた。

次世代のためにできること。未来を見据えた挑戦

このほかにも、新しいチャレンジを毎年行っている。昨年は湛水直播栽培に挑戦したそうだ。苗を育てずに田んぼへ直接種を撒く方法で、知り合いの生産者に教わりながら試験的に取り組んだところ、良い結果が得られたため、今年は作付面積を5倍に増やす予定のようだ。また、乾いた田んぼに種を撒く乾田直播は、昨年は天候により条件が揃わず実施できなかったため、今年改めて挑戦したいと話してくれた。

直播栽培を始めたのには理由がある。現在、農業従事者の約7割を60〜70代が占めており、団塊世代が数年後に引退すれば、多くの田んぼが担い手を失うことになる。直播栽培は従来の移植栽培と比べて時間もコストも省力化できるため、広い面積を耕作することができる。そう遠くない未来に面積がさらに増えることを見据え、今のうちに準備をしておきたいと黒澤さんは考えている。

担い手の育成にも積極的だ。今年も1名ほど採用を予定している。田んぼが増えていく中で、それに見合った栽培技術を持った人材が育たなければ、お米をつくり続けることも、田んぼを守ることもできない。「担い手を育て続けたい。そのためには自分も成長し続けなければいけない」と未来を見据える黒澤さんからは、若手生産者とは思えないほどの威厳が伝わってきた。

届けたいのは、価格に見合う価値

昨今のお米を取り巻く環境は激動だ。「あって当たり前のものがなくなると、人はこんなにも欲するのだと気づかされました」と黒澤さん。お米の価格が高騰したことで、麺やパンに切り替える人もいれば、牛丼大手チェーンがラーメン店を買収するというニュースも耳にする。流通価格に見合ったおいしさを提供できているのかを常に自問自答しているそうだ。「お米に今の市場価格ほどの価値はないのかもしれない」と感じることもあったそうだ。「作り手として襟を正さないといけない。これからも自分磨きを続けていきたいです」と黒澤さん。

一方で、山形県産のお米はおいしいということも多くの人にぜひ知ってもらいたい、と考えているそうだ。魅力を発信し続けるためには、自身だけでは限界がある。「お米番付」最優秀賞受賞も、黒澤さんの発信の一つにつながっているそうだ。

「『つや姫』は万能」と黒澤さんは言う。そのままでもおいしく、定食にも合い、おにぎりや炊き込みごはんにも最適とのこと。「一口目はお米だけで味わっていただき、その次からお好きなものと一緒に召し上がってほしい」お米が好きな人には、好きなお供と一緒に楽しんでほしいとのことだ。

“農業という生き方”

お米づくりについて黒澤さんは「私にとって農業は職業ではなく、生き方そのものなんです」と話す。休もうと思えば休める。けれど、休みたくない。3月から12月までは深夜に起きることもあれば、早朝起きも当たり前。それはもう仕事ではなく、”農業という生き方”そのものだという。

3年前に黒澤ファームのお米づくりを全面的に担うようになってから、心情に大きな変化があった。就農当初は「いかに休む時間を作るか」を重視していた。「土日休みにできないか、夕方には切り上げられないか」そう考えながら働いていた。しかし次第に、それでは従業員と同じマインドだと気づく。

代表や責任者が人の倍以上の熱量と仕事量を持ってこそ、後ろもついてくる。自分は熱量を持って引っ張っていくリーダーでありたい。うまくいかず原因を探って仮説が生まれた時、「あの時休まなければ」と後悔が残るかもしれない。だから後悔のないように動き続ける。3年前に比べると、プライベートに割く時間は激減した。雨が降らずヒヤヒヤした夜、動悸がして寝付けないこともあったそうだ。だからこそ体を大切にするようになり、食事にも気を配るようになったと黒澤さんは語る。

厳しい夏の暑さに対応するため、働き方も変えた。例年の夏は8時〜12時、13時〜17時という作業時間だったが、猛暑の中で作業を行うと、お昼休憩1時間だけでは体が休まらない。そこで、今年からは6時~12時、15時~17時にシフトした。最も暑い12時〜15時を避けることで、作業効率が大幅に向上したそうだ。おいしいお米をつくるために、黒澤さんは毎年自らの思考をアップデートし、最善の行動を模索し続けた。その先に、今回の最優秀賞があるのかもしれない。

“食の価値を高めるお米”をつくり続ける

黒澤ファームのスローガンは”生きることは食べること”。食べるということには様々な意味がある。生き延びていくため、また時にはコミュニケーションツールにもなる。食事は人が生きていく上で必要不可欠なものだ。その大切な”食”を支えている農業は、かっこいい職業。

しかし、おいしいと思ってもらえなければ意味がない。選ばれるようなお米をつくりたい。お米の能力を最大限に発揮できるようにつくる。”食の価値を高めるお米”をつくることが黒澤さんのモットーだ。

黒澤さんがお米づくりをする上で大切にしていることがある。

「生産し続ける」
「魅力を発信し続ける」
「お米の価値を下げない」
「担い手を育て続ける」

この4つの信念が、黒澤さんの全ての行動の原点となっている。

「お米をつくり続けることが私たちのミッション。消費者が求め続けてくれるのであればつくり続ける。いらないと言われれば、廃業するしかない。それが生産者という職業なんです」と言葉を残した。これからも黒澤さんの”食の価値を高めるお米”づくりは続く。

2026年2月7日(土)から2月8日(日)の2日間、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、黒澤拓真さんの「つや姫」が提供される。安土桃山時代から460年以上続く家業の歴史を背負い、”農業という生き方”を自らの誇りとする黒澤さん。その”食の価値を高めるお米”を、是非味わっていただきたい。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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