
成分分析計を使わず、審査員の五感で選び抜かれる「お米番付第12回大会」。今回、入賞を果たしたのは、佐々木和弘さんの北海道蘭越町「ゆめぴりか」だった。昨年の「ななつぼし」に続き、2年連続での入賞となった佐々木さん。「嬉しいのと、悔しいのと」と率直に語るその姿勢には、常に上を目指しながらも、決してぶれることのない米づくりへのこだわりがあった。
■ おいしさを第一に掲げて
今年で就農から25年となる佐々木さん。以前は洋食の料理人として働いていたが、先代の他界をきっかけに専業農家となった。当時、米価は1俵9,000円台という厳しい時代。「このままでは生活ができない」という危機感から、お客さんに自身のお米への価値を感じてもらうため、おいしさを追究する道を選んだ。
極める道を歩み続けた結果、佐々木さんのお米はどんどん有名になっていき、今では毎年人気。昨年の米価高騰で値上げを余儀なくされた時は「どんなに高くても佐々木さんのお米が食べたい」「値段は全然気にしていないから」とお客さんから声が寄せられたそうだ。お客さんは正直で、一度おいしくないお米を出してしまうと2度と買ってくれない。値上げをしてもついて来てくれるのは、あの甘くて上品な口当たりのお米をこれからも食べ続けたい、という応援の心からきているのかもしれない。
「お米番付」での入賞の影響もあってか、昨年から北海道だけでなく本州からの新規注文も目立つように。受賞を機に取材も増え、新聞に載る機会も多数あった。おいしさを第一に掲げて大切に育てたお米が評価され、近年は益々お客さんが増えている。
■ お米づくりで大切にすること
佐々木さんがお米づくりをする上で長年大切にし続けていることは、稲の根張りだ。「夏の暑い時に、田んぼの中で温かいのは地表から5〜7センチくらいまで。それより深い層は冷たいんです」と佐々木さん。ひんやりとした深い層まで根を届かせてあげるため、田起こしを深く行うようにしている。稲に快適に過ごしてもらうことが、おいしいお米づくりの秘訣となる。
これに加えて、気になった栽培方法があれば毎年試している。今年は、飼料米で密苗の試験栽培を始めたそうだ。育苗箱1つに植える種籾の数を通常の約2倍に増やし、箱数を減らす方法だ。これを導入することで、片道5キロ、車で15分もかかる離れた田んぼへ苗を運ぶ負担を軽減できる。来年は一部の食用米でも導入を検討しているが、お米のおいしさは担保するために慎重に広げていく予定。おいしさ第一の姿勢は崩さない。
■ 数字に出なくても、稲は感じている
地球温暖化によって年々気温が高くなっていく影響で、稲の刈り取り時期も全国的に早まってきている。佐々木さんは秋になる前に、農協の「適期刈り取り講習会」に自身の稲を持っていき、農業指導員やJA職員といったプロに相談しながら稲刈りの日を決める。ここに顔を出すことで他の生産者とお互いの稲を見比べ、意見を交わすこともできる。
佐々木さんによると、北海道蘭越町の昨年夏の最高気温は、平年並みだったそう。一方で「適期刈り取り講習会」に集まった生産者とは、刈り取り時期が年々早まっていることが話題に上がった。気温の数値には大きな変化が現れていない蘭越町のような地域でも太陽の日差しは強くなり、稲が感じている暑さは確実に増しているのかもしれない。
■ 農薬は、稲にとっての“治療”
おいしいお米づくりを行う中で、佐々木さんにはぶれない主張がある。それは農薬に対する考え方。近年、無農薬やオーガニックへの関心が高まっている。もちろん、それぞれの生産者に信念があり、様々な栽培方法があっていい。ただ、農薬を使ったお米を全て悪とするような考えに、佐々木さんは疑問を覚えるそうだ。「検証を経て安全が確認されたものが、農薬として販売されている。人間が飲む薬と同じで、用法と量を守っていれば安全だと思っています」と佐々木さんは話す。
雑草は生命力がある。農薬を使わず草だらけになってしまった田んぼでは、稲は栄養の奪い合いに負け、おいしいお米を実らせることが難しくなる。こうした考えのもと、佐々木さんの田んぼでは農薬を使っているそうだ。もちろん、制限なくふんだんに使うわけではない。必要な時に、必要な量だけ。稲の健やかな成長を助ける“治療”として、適切に使用する。それが、おいしいお米を育てるための佐々木さんのやり方だ。
■ 毎日休みなし。広い田んぼを一人で守る
現在の作付面積は約13ヘクタール。引退した生産者からの借り入れにより、昨年から3ヘクタール増えた。広大な田んぼを、耕すことができるのは佐々木さん一人。忙しい中でも、毎朝、毎夕、田んぼを見て回り、水の調整を行う。お姉さんが注文対応を担当し、家族経営で回している。
佐々木さんの田んぼでは、ポンプで水を汲み上げて水位の調整をする。かつては川の流れに沿って水を引いていたが、昭和49年と56年に水害に見舞われ、先代が現在の仕組みに変えたのだという。掛け流しをすればするほど電気代がかかるため、経費も計算しながらお米づくりをしなくてはいけない。
夜の冷え込みに備えて夕方から水を入れることもあり、毎日休みなしだ。佐々木さんは「毎日こまごまとやってるけれど、説明のしようがない」と笑うが、こうした言葉にできないほどのたくさんの積み重ねが、佐々木さんのおいしいお米をつくりあげている。
■ 変わらないことの強さ
今後のお米づくりについて伺うと「来年も、これまで通りにやっていきます」と話す。前回に続き「お米番付第12回大会」でも入賞だった佐々木さん。「悔しいですよ。少しでも上に行きたいです」と即答する。しかし、そのために何か特別なことをするわけではない。「環境が変わったら、その時に適応する。それだけです」と淡々と話す。
「お米番付」に限らず、他のコンクールでも受賞歴を複数持つ佐々木さんは、他の生産者からも噂をされる存在だ。その強さの秘訣は、右往左往せず、ずっしりと構えて、ひとつひとつのことを丁寧に続けることにあるのかもしれない。
■ お米づくりは俺自身
佐々木さんにとってお米づくりは、生活を支える手段であると同時に、自分という人間そのものを表現するもの。だからこそ、「お米番付」での受賞は「自分の分身が評価されている感覚」なのだという。実際、本大会の審査員からも「つくり手の気持ちが伝わってきた」という評価があった。
今後は、自身を応援してくれる人たちを大事にしていくことを目標に掲げて、お米づくりを行っていきたいそうだ。佐々木さんのお米を購入する人は、全国星の数ほどあるお米の中から本当においしいお米を求めて、敢えて選んで購入する。そのお客さんは、佐々木さんと一緒に受賞を喜んでくれる、もはや応援隊だ。これからも、応援隊として支えてくれる人たちの気持ちに応えるため、日々のお米づくりと向き合っていく。

2026年6月20日(土)から6月21日(日)の2日間、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、2年連続入賞を果たした佐々木さんの「ゆめぴりか」が提供される。ぶれることなくお米づくりを続け、毎年応援する人が増えていく、佐々木さんのお米。昨年入賞の「ななつぼし」を召し上がった方は、もう既に佐々木さんの応援隊の一人。昨年との味わいの違いを愉しんでほしい。そして今回初めての方には、噛んだ瞬間に広がる甘さとキャラメルを彷彿とさせる喉越しをぜひ感じてほしい。口にすれば、きっとこれからの佐々木さんのお米づくりを応援したくなるだろう。

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター
広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。
