厳しい時代のお米づくり、地域と業界を守りたい「お米番付 第12回大会」入賞:河原一馬さん 品種:いのちの壱

厳しい時代のお米づくり、地域と業界を守りたい「お米番付 第12回大会」入賞:河原一馬さん 品種:いのちの壱

最終更新日:2026-06-15

成分分析計を使わず、審査員の五感で選び抜かれる「お米番付第12回大会」。今回入賞したのは、岐阜県下呂市の河原一馬さんがつくる「いのちの壱」だった。蛍の舞う美しい山間の田んぼで育った、こちらのお米の特長は、噛めば噛むほど口の中で広がる上品な甘み。受賞米を育てた河原さんは、地球温暖化や米価、そしてお米づくりの担い手不足など、これからの厳しい時代を見据えてさまざまなことに取り組んでいる。昨今のお米業界についてどのように感じ、それに対してどんな準備をしているのか伺ってきた。

福岡から移住、お米づくりにのめり込む

河原さんの出身は福岡県。結婚を機に、奥様の実家があるこの下呂市へ、14年前に移住した。「お米づくりは最初、移住後のつなぎのバイトのつもりだったんです」と当時を振り返る。もともと外で体を動かすことが好きで、就農当時はただ機械に乗ることが楽しかったそうだ。先代がお米の食味コンクールで受賞している様子を見て興味が湧き、お米づくりの勉強会に参加したり、詳しい生産者に聞きに行くようになった。「今から5年ぐらい前には、すっかりのめり込んでいました」と笑う。

当初は成分分析計の点数を意識したお米づくりに奮闘していた。良い点数を取るコツは、お米の窒素成分を抑えること。しかし極端に抑えると稲は健全に育たず、どうしても収量が落ちてしまう。経営と成分分析計の点数とのバランスに悩む日々が続いた。

悩んだ末、1~2年前から「収量もある程度はなくてはならない」と考えて、窒素成分を増やして稲を健全に育てることを意識するようになった。すると健全に育てたお米の方が、お客さんからの「モチモチしている」「去年と全然違う」という嬉しい声をいただけることが分かった。これをきっかけに河原さんは、成分分析計の点数を追い求めるのではなく、大勢のお客さんにおいしいと感じてもらえるお米づくりに切り替えたそうだ。

甘さ際立つ「山水育ち」

6月の終わり頃になると蛍が飛び始める下呂市は、豊かな自然に恵まれた地域だ。田んぼの近くにある小さな山の谷間から湧き出る水が、お米の甘さを引き出す。そのため、河原さんの甘いお米は「山水育ち」という名前で知られ、県内外のお客さんから人気がある。

田んぼの水管理には、特にこだわりが強い河原さん。粘土質で水が抜けにくいこの土地では、田植えから40~60日後に行う、中干し(田んぼの水を抜いて土を乾かす作業)が欠かせない。もともとこの地域では、中干しをしない生産者が多かった。しかし河原さんは、それでは食味が上がらないことに気づき、自ら実践。その効果を周囲に伝え、地域に広めていった。今では、この地域で中干しの普及をけん引する存在となっている。「中干しをしないと土の中にガスが湧いて、稲が酸欠状態になる。ガスを抜いて土壌を回復させると、根が地中深くまで張ってくれるんです」と教えてくれた。

植え付けの間隔にも工夫がある。一般的には18~20センチのところを、河原さんは24センチに広げる。風通しを良くし、光合成しやすい環境をつくるためだ。「光合成をたくさんしたお米は、やっぱりおいしいんです。稲が倒れてしまう倒伏も防げるし、病気も出にくくなる」と河原さん。有機肥料をメインで使用し、農薬は大幅に減らしている。こうした積み重ねが、噛むほどに広がる甘みをさらに引き出している。

生産者同士の繋がりが、よりどころ

河原さんが「お米番付」に出品したきっかけは、本大会の受賞歴が何度もある高山市の生産者、森本久雄さんからの勧めだった。森本さんとは、おいしいお米づくりを追究する生産者が集まる「飛騨高山おいしいお米プロジェクト」で知り合った。

「お米番付」には今回で2度目のエントリーだった河原さん。昨年、初めて出品したときは「全然かすりもしなかった」と苦笑する。今年、入賞したことについては嬉しい反面、なぜ受賞できたかという理由については、初受賞ということもありご自身ではまだ分かっていないそうだ。「次また入賞できたときが、一番嬉しいかもしれない。理由が分かった時こそが本当のゴールなんですよね」と話す。

「飛騨高山おいしいお米プロジェクト」では、プロジェクトメンバーとお互いのお米づくりを共有し合っている。昔は生産者同士で、お互いのお米づくりを隠す風潮もあったというが、今は若手生産者を中心にオープンな交流が広がっているそうだ。「お互い厳しい時代を生きていく仲間じゃないですか。ライバル心より、助け合っていかないと苦しい。だから自分は栽培方法を聞かれたら、全部オープンに話します」と河原さん。他の生産者たちとの繋がりが、一番のよりどころになっているそうだ。来年は、森本さんと一緒に「お米番付」の表彰式と交流会に参加することが目標だという。

「みどり豊」で温暖化に立ち向かう

近年、夏の気温はどんどん上がっていき、それに伴いこれまで通りのお米づくりが難しくなってきている。以前は「コシヒカリ」が最もつくりやすい環境だった下呂市も、状況が大きく変わってきた。「ここ3年、ずっと暑い。お米の内部にヒビが入る『胴割れ』や、暑さで粒が白く濁ってしまう『白未熟粒(しろみじゅくりゅう)』が目立つようになりました。『コシヒカリ』一辺倒の時代は、いよいよ終わりを迎えると思います。気候の関係で無理なものは無理と、どこかで割り切らないといけない」と語る河原さん。今年から「みどり豊」という品種への切り替えを進める予定だ。

一般的にあまり知られていない「みどり豊」。これまでは品種の特性上、粒に甘さがのる登熟期に気温が足りないことが原因で、おいしく栽培することが難しかった。しかし近年は温暖化が進み、「みどり豊」の登熟期に適した気候になってきた。「コシヒカリ」より収穫が2週間遅く、残暑を避けることができるうえ、種子が比較的手に入りやすい点も魅力だ。

肝心のおいしさも、申し分ない。河原さんが、10年にわたり「みどり豊」を栽培してきたベテラン生産者のお米を試食したところ、「お米番付」で複数回受賞歴のある生産者の「コシヒカリ」にも引けを取らないほど、甘みが際立っていたそうだ。河原さんは今年から、このベテラン生産者からノウハウを教わる予定だという。「まだ誰も注目していない品種を先取りできる環境に恵まれて、本当にラッキーだと思っている。この状況を活かしていかないと次の競争に負けると思っています」と話す。「お米番付」にも、今年からは「みどり豊」をエントリーする予定なのだそう。

業界と地域を、価格と栽培で守っていく

生産者の頭を悩ませるのは温暖化だけではない。お米の価格高騰の中、これまで極端な値上げをしてこなかった、河原さん。業界全体を見据えた価格設定を心がけている。逆に今後、市場価格が下がったとしても、簡単には価格を下げるつもりはないと話す。

一昨年は利益を取らずに耐えた。だからこそ、今度は価格を維持させてほしい。そんな「お互い様」の精神で、お客さんとの関係を築いている。「米騒動前の価格が適正価格ではないということは、知っておいてほしい」と真剣な表情で話す。赤字かギリギリのラインで、補助金をもらってやりくりしている生産者が多いのが現状だ。

お米生産者の平均年齢は70歳。このままでは10年後、新規就農したいという若者が増えず、日本のお米づくりの担い手がいなくなり、下呂市のような山間地域は廃れていってしまうかもしれない。「自分の子どもが住む地域を残していきたい」という河原さん。自身も地元である福岡から離れているから、余計にそう思うのだという。これからも、お客さんにおいしいお米を届け続けることで、子どもたちが誇れる美しい風景を守ることが目標だ。

「価格にしても気候にしても、厳しい時代が来ると思う。でも、自分のことだけを考える時代は終わった。全国のお米生産者さんと一緒に、日本のお米業界を守っていくつもりでやっていきたい」と語る河原さん。お米業界の未来を見据えて、今まさに戦っている生産者としての覚悟が伝わってきた。

7月4日(土)から7月5日(日)まで、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、河原一馬さんの「いのちの壱」が提供される。磨き上げられた炊飯技術と八代目儀兵衛独自の土鍋を使用することで、番付受賞米を最高の状態で愉しむことができる。蛍が飛び交う美しい自然が残る、下呂市を守りたい。そんな河原さんの想いによって実った「いのちの壱」を、ぜひご堪能いただきたい。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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