“孫が継ぎたいと思える農業”をつくる「お米番付第12回大会」入賞:遠藤敏夫さん 品種:「ゆうだい21」

“孫が継ぎたいと思える農業”をつくる「お米番付第12回大会」入賞:遠藤敏夫さん 品種:「ゆうだい21」

最終更新日:2026-07-07

人の五感で「甘い」と感じるお米を選ぶ「お米番付」。第12回大会で入賞を果たしたのは、福島県郡山市で栽培された遠藤敏夫さんの「ゆうだい21」だった。初めてのエントリーにして入賞という快挙だった遠藤さん。今回のインタビューには奥さまとお孫さんも同席してくださり、和気あいあいとした雰囲気の中、これまでの遠藤さんのお米づくりとこれからについてお話ししてくださった。

震災を経て、次世代へつなぐ

遠藤さんの田んぼがあるのは福島県郡山市。2011年の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の直後から、放射線量の安全基準を全てクリアしているにもかかわらず、安く買い叩かれる時期が長く続いた。15年経った今もなお、その影響は完全には消えていない。産地のブランディングで売れないのであれば、おいしさで勝負するしかない。遠藤さんは「福島のお米なんてって言われるのを、見返したかった」と当時を振り返る。

その後、遠藤さんは2018年にGAP(Good Agricultural Practices)認証の取得に動いた。GAPとは、それまで勘や経験で行っていた栽培管理を文書化し、第三者が見ても分かるようにする仕組みだ。取得できれば、販売先にも信頼してもらえる。

文書化することで、お米づくりを引き継ぐ手引きにもなる。遠藤さんの奥さまは「おばあちゃんのレシピにある”みりんひと回し”を”みりん何cc”にしたようなものですよ」と話す。「GAPで継承するのはあくまでお米づくりの基礎ですけどね。常識は変わるものなので。私たちのお米づくりの常識が先代とは違うように、孫の時代にはまた変わる」と語る遠藤さん。GAP認証の取得はおいしいお米づくりを縛るルールではなく、次世代へ安心してつなぐための共通の土台なのだ。

時代の先を読む、お祖父さんと似たもの同士

遠藤さんのご家系のお米づくりは、お墓の記録から推定して約300年。代々お米づくりを商いの中心としてきた。「子どもの頃からじいさんに”おめえがあと継ぐんだぞ”って。洗脳されていました」と遠藤さんは笑う。

遠藤さんのお祖父さんは、時代の先を読む人だった。まだ誰も想像すらしていなかった時代に「トラクターはお前らの時代には自動で走るぞ」と言っていたそうだが、それが今では現実になっている。そしてお祖父さんと同じように遠藤さんも、先を見て最先端の技術を取り入れている。最近では、衛星データとAIを活用したスマート農業ツールで生育管理を行っているそうだ。天気の良い日には衛星が田んぼの写真を撮影し、AIが「そろそろ肥料を撒いた方がいい」などとパソコンやスマートフォンに知らせてくれる。

最先端の技術を取り入れる一方で「おいしいお米をつくるためには汗をかかないと」と話す、遠藤さん。お祖父さんの口癖は「百姓は毎年一年生だぞ」だった。スマート農業で効率化しつつも、日々田んぼに足を運び、毎年変化する稲の成長を自分の目で確かめる。親類からはよく「じいさんに似ているね」と言われるそうだ。

おいしさと”孫が継ぎたいと思える農業”が目標

おいしいお米づくりをするため、遠藤さんは収穫量を追い求めすぎないようにしている。遠藤さんが「大先生」と呼ぶ、郡山市内にいるベテラン生産者から「味を追い求めるなら、収量はたくさん取っちゃいけない」と教わったそうだ。なるべく肥料を与えず、稲の生命力を引き出す。稲が根元から強く成長すれば栄養吸収も高まり、甘みの強いお米が育つ。その教えに従い、一部の田んぼでは100%有機肥料を使用し、農薬は特別栽培米に準ずるレベルまで削減しているそうだ。近年は、「バイオスティミュラント資材(植物の活力を引き出す資材)」も導入。自然界の微生物などの力を借りて、空気中の窒素を稲の栄養に変えることで、さらに肥料を減らすという新しいお米づくりも始めた。

肥料を減らすことは、環境への配慮にもつながる。遠藤さんの田んぼに届く水は、日本で4番目に大きな猪苗代湖から安積疏水を通じて引かれた農業用水だ。「100年以上前にご先祖様が残した偉大な遺産」と話す遠藤さん。これがなかったら郡山でお米づくりはできないそうだ。そして、ご自身がこれまで先人たちから享受してきた恩恵を、今度は次の世代へ継承したいと未来を見据える。もしもお孫さんが家業を継ぐことになったら、その時は安心して継いでもらえるように、おいしいお米をつくることができる環境を残したい。自分の代だけの私利私欲ではなく、”孫が継ぎたいと思える農業”を目指してお米づくりに励んでいる。

自慢の甘さが、信用とやりがいに

遠藤さんのお米を、顔中にお米粒をつけながらパクパク食べる、幼いお孫さん。お家ではふりかけもかけず、白ごはんで何杯もおかわりをするほど、そのお米にはお米自体に甘みがある。遠藤さんのお米にすっかり舌が肥えてしまい、外食先ではごはんに手をつけないこともあるそうだ。奥さまは「食育は完全に成功してると思います」とお孫さんを見て、顔を綻ばせる。

高齢化により引退した地域の生産者から借りている田んぼも多い。耕す面積は広がっているが、おいしいお米づくりのために手は抜かない。「先祖代々の大切な土地をお借りしているんだから、その恩義をおいしさで返したい」と話す遠藤さん。それが信用につながり来年もお借りする、という循環が生まれている。

「おいしい」という反響が一番の成果

遠藤さんの奥さまはご結婚されるまで、お米づくりと全く縁がなかったそうだが、今ではすっかり遠藤さんを支える存在。そんな中、ご実家がセブン-イレブンの店舗を経営していたこともあり、そのおにぎりのお米を監修していることで八代目儀兵衛を知った。それが今回の「お米番付」へのエントリーのきっかけとなったそうだ。

「ただつくるだけではつまらないじゃないですか。コンクールに出して、反響をもらって、『おいしい』って言ってもらえるのが一番の成果」と話す遠藤さん。今回の「お米番付」表彰式前には受賞者同士がブラインドで食べ合って評価し合う企画があった。そこで1番人気だった北海道瀬棚郡今金町の吉本辰也さんが育てる「ゆめぴりか」について、遠藤さんと奥さまは「あれはもうピカイチだったよね」と顔を見合わせていた。

孫を抱いて表彰台、そして世界へ

遠藤さんご夫婦の夢は「お米番付」で最優秀賞を受賞し、お孫さんを抱いて表彰式に出ること。「農家は大変だ、とは言いたくない。ポルシェ超えの高い農業機械に乗って、受賞したらこんな華やかな舞台に立てるんだぞ、と伝えたい」と笑顔で話す。大変なことの積み重ねだが、その先にはそれだけのいいことがある、ということをお孫さんの前で、これからも身をもって示していきたいと言う。

「どれだけ大きな背中を見せられるかですね、じいじが」と遠藤さんの隣で奥さまが微笑む。奥さまには、実は大きな野望があるらしい。「孫が高校生になったらオーストラリアに留学する予定なので。ばあばが追いかけていって、向こうでおにぎり屋さんをやるぞって考えています。夢は大きくね」と目を輝かせる横で、遠藤さんも笑う。福島のお米を世界へ。ご夫婦の夢はどこまでも広がっていく。

2026年7月18日(土)から7月19日(日)の2日間、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、遠藤敏夫さんの「ゆうだい21」が、提供される。遠藤さんご本人は繁忙期と重なり足を運べないが、娘さまご家族がお孫さんを連れて食べに行く予定だそうだ。「炊き方で味は全然変わるから、プロの方が炊いたら最高においしいに違いない。娘からの感想が楽しみですね」と遠藤さん。震災の悔しさをバネに立ち上がり、おいしさで勝負。そして夫婦で”孫が継ぎたいと思える農業”を目指している遠藤さん。その甘い白ごはんを召し上がった方はきっと、お孫さんとおなじように何杯もおかわりしたくなるだろう。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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