
最終更新日:2026-07-22
成分分析計を使わず、審査員の五感で選び抜かれる「お米番付第12回大会」。その入賞として、福島県須賀川市の國井真宏さんが育てる「コシヒカリ」が選ばれた。会社員と両立しながら兼業農家として6年間お米づくりを行っている國井さんのモットーは“どうせやるなら楽しく”。日々の農業日記を動画として残す中で、それをYouTube番組「まーとんTV」にもアップ。発信を続けていく中でチャンネル登録者数は2.72万人(2026年4月時点)にもなり、コメントを通じて他の生産者との交流も行っている。今回は國井さんが体現する、楽しみながらするお米づくりについてお話を伺った。
見よう見まねでゼロから
2019年、お義父様の他界をきっかけにお米づくりの世界へ飛び込んだ國井さん。婿養子として就農したため、農業経験はゼロ。就農2年目までは、ただ無我夢中でお米をつくる日々が続いた。「やったことがなかった。親戚に手伝ってもらいながら見よう見まねで、最初はとりあえずお米になればと必死でした」と当時を振り返る。
動画を撮影し始めたのは就農3年目頃。作業に少しずつ慣れてきた頃に「動画に残せばカレンダーも日記もつけなくていいじゃないか」と、撮影を始めた。農業日記のつもりで始めたが、YouTubeへの投稿を続けるうちに他の生産者からのコメントがたくさん届くようになった。「うちはこうしてますよ」「これはこうするといいよ」というアドバイスをもとに、自身のお米づくりにアップデートをかけていった。「今があるのは動画発信を通じてつながった生産者さんたちと、こうして交流させていただいているおかげでもあると思っています」と、國井さんは話す。
動画発信とコメント交流でつながった、楽しいお米づくり

國井さんのYouTube番組「まーとんTV」の登録者数は現在3万人。“どうせやるなら楽しく”というモットーのもと、日々の農業日記のほかに、動画を通じて知り合った人たちと交流する動画も発信している。「農業って渋々やってるイメージが多くて。でもやってみると楽しいし、つらい作業でも面白くやると、不思議と面白く感じてくるんですよね」と國井さん。視聴者の8割以上は生産者で、なかでも國井さんと同じ兼業農家が多いという。
動画には台本がない。その日の作業をカメラに収めて、ありのままを記録する。「農作業をやるから撮影してるんです。撮るために農作業してる訳じゃない」と話す。視聴者とのつながりや、コメント欄でお米づくりの情報交換をするようになったのは、自分のためのリアルな記録だからなのかもしれない。以前、國井さんが密苗という新しい栽培方法にチャレンジした時も、視聴者からのコメントがきっかけとなった。ハウスの増設を迷っていたことをありのまま動画にしたところ、生産者からコメントをもらい、密苗のキットを「使っていないので使ってください」と譲ってくれたそうだ。今回の「お米番付」で受賞した「コシヒカリ」も密苗で栽培したお米だ。「発信してなかったら今の受賞もなかったと思います」と話す。
自然と愛情で育まれた“國井米”
一級河川である阿武隈川を流れてきた、たっぷりの水があるおかげで、水不足とは無縁の須賀川市。平野にあり、田んぼに日光が一日中降り注ぐ。基盤整備をしていないため人工的な地形に整っておらず、作業の効率は悪くなってしまうが「つくるところとしてはすごく恵まれてる場所」と國井さんは話す。
すくすくと育って収穫した國井さんのお米は、うっとりするような甘みが感じられる。ゆっくりと咀嚼してから飲み込むと、すっとほどけるように儚い。炊き上がりから時間が経ってもおいしく、國井さん自身も「冷めてからが本領発揮」と話す。一度食べたらリピートする人も多く、お客さんの間では“國井米”として親しまれている。
「愛情は込めつつ、できるだけ楽してつくる」というのが“國井米”の育て方。カメムシが出にくい地区のため防除剤を使わずに済み、肥料も田植え前の一回のみ。耕す4ヘクタールの全ての田んぼで同じ栽培方法を行っている。自身の田んぼで収穫したお米は全て、コンテストで受賞したお米と同じおいしさであることが、國井さんのこだわりだ。
自分のお米の実力を知るために
「お米番付」へのエントリーは今回で3回目。応募を決めたきっかけは、自分のお米がどれくらいおいしいのかを知りたいという気持ちだったという。先代であるお義父様のお米づくりのレシピに、他の生産者からのアドバイスを交え、自身のおいしいお米づくりを確立してきた。國井さん自身は言葉にしないが、ゼロからお米づくりを始め、兼業でおいしさを追い求めることは、きっと私たちの想像を超えるほど大変なこと。受賞した時は椅子から飛び上がるような感覚だった、と國井さんは笑う。「亡くなった義父にもいい報告ができた、やってきてよかったな、と思いました」と話す。
成分分析計の点数ではなく、食のプロが実際に食べて評価する「お米番付」を選んだ理由を尋ねると、「やっぱりおいしさって点数だけでは無いと思います」と答える。以前、成分分析計で自身のお米のスコアを計り、その結果と実際に食べた時の感想が違うこともあった。その時感じたことやコメントも、もちろん動画として記録している。
これまで動画の発信や交流を続けていく中で、心ないコメントが届くこともあった。「賞を取れば説得力が上がる。ちゃんとしたお米をつくってるんだなって思ってもらいたかったし、証明したかった」と話す國井さん。「お米番付」受賞後はそういったコメントが減ったように感じているという。
真のチャンピオンを目指して
「お米番付」で國井さんが目標としているのが、今回の受賞で史上最多受賞者となった長野県安曇野市の宮澤和芳さん。「一度きりで終わらず、どんな強者が来ても毎年選ばれるのがすごい、真のチャンピオンですよ」と宮澤さんのような連続受賞を目指すそうだ。
國井さんがこれまで育ててきたのは「コシヒカリ」1品種のみだったが、今年からは新品種「にじのきらめき」の栽培を始めた。この品種の特長は、コシヒカリよりも夏の猛暑に対する耐性があり、さらに粒が大きくて収量も多いこと。國井さんのお米をリピートするファンは年々増え、近年は収量が足りないという問題があった。こうした背景から「にじのきらめき」を始めれば、おいしさと収量を両立できそうだと判断し、今年は試験的につくってみることにしたという。
もっとおいしく、もっと楽しく
「お米番付」の審査員から「噛むほどに透き通るような甘さ」と評価された今回の國井さんの「コシヒカリ」。受賞を機に、販売の方法も多面的にしていく予定だ。「お米づくりは一番熱中してる趣味とも言えます」と笑顔で答える國井さん。いつかは専業農家になりたいという夢がある。
國井さんが、初めて食べた時に衝撃を受けて今でも印象に残っているのは、西日本を中心に栽培されている「にこまる」という品種。それと比較した際に「もうちょっと香ばしい香りが欲しい」と、自身のお米への評価はまだまだ厳しい。これからも“どうせやるなら楽しく”をモットーに、日々の記録としてカメラを回しながら自身のお米づくりと向き合い、時には他の生産者と高め合っていく。“國井米”はこれからも進化していく。

2026年8月8日(土)から8月9日(日)の2日間、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、國井さんの「コシヒカリ」が提供される。もともとは義父のお米づくりを基盤にしてゼロから始めたお米づくり。そこから“どうせやるなら楽しく”をモットーに、動画で記録する農業日記と他の生産者との交流を続け、現在の“國井米”が誕生した。口に入れると感じるもっちりとした粒感と、優しくほどける儚い甘み。当日は、磨き上げられた炊飯技術と八代目儀兵衛独自の土鍋によって、生産者が丹精込めて育てたお米を最高の状態で炊き上げて提供する。ぜひ各店で、炊き立ての“國井米”をご堪能いただきたい。

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター
広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。
