最終更新日:2022-04-15
香典返しを辞退したい。ご遺族の負担に配慮し、そう考える人も少なくないでしょう。しかし、伝え方を間違ってしまっては、せっかくの心遣いが伝わらないどころか失礼にあたってしまう恐れもあります。
本記事では、香典返しを辞退する際の適切な伝え方をはじめ、香典返しの辞退を受けた遺族側の対応についてマナー講師が解説します。
そもそも香典返しとは
香典返しは辞退して大丈夫?
香典返しの辞退。よくある理由
香典返しを辞退する理由(1)遺族への配慮
香典返しを辞退する理由(2)連名で贈ったり少額だったりするため
香典返しを辞退する理由(3)規定で禁止されている
香典返しを辞退する方法
香典返しを辞退する方法(1)香典袋や一筆箋に書き記す
香典返しを辞退する方法(2)香典を渡すときに口頭で伝える
香典返しを辞退する方法(3)葬儀・告別式以外で香典をお渡しする場合
郵送で香典を送る場合
香典を持参する場合
香典返しを辞退する際の書き方や文例
香典袋に書く書き方・文例
一筆箋の書き方・文例
香典返しの辞退に関する注意点
香典返しを辞退する際の注意点(1)伝えるのが遅い
香典返しを辞退する際の注意点(2)少額を包み、意思表示しない
香典返しの辞退を受けた場合。遺族側の対応について
遺族側の対応(1)お礼状を出す
遺族側の対応(2)簡単な品物を贈る
遺族側の対応(3)分けられるものを贈る
遺族側の対応で気を付けるべきこと
まとめ
そもそも香典返しとは
通夜や葬儀でいただく香典は、故人への感謝や哀悼の気持ちをお金で表すもの。「香典返し」は、その香典に対する遺族からのお返しです。
宗教により違いはありますが、四十九日を終えたひと月以内を目安に送るのが一般的です。香典返しには、香典をいただいたことへの「お礼」と、「故人を弔う一連の法事が滞りなく済みました」という「報告」の意味があります。
いわば遺族にとってのひと区切りの形といえるでしょう。
香典返しは辞退して大丈夫?
「香典返しを辞退したいけれど、それは失礼に当たるのではないか」と悩まれる方も多いのではないでしょうか。しかし、その心配は無用です。香典は亡くなった方へのお悔やみの気持ちであって、お返しをもらうために贈るものではないからです。香典返しを辞退すること自体はマナー違反ではありません。
ただ通常は、香典をいただいたら香典返しをするのが日本の習慣。辞退する場合は、適切な方法とタイミングで確実に伝えることが礼儀です。
香典返しの辞退。よくある理由
香典返しを辞退する場合、そこにはどのような思いや事情があるのでしょうか。まず挙げられるのは、遺族の今後の生活に役立ててほしいという思いでしょう。しかし、それだけではありません。社会的な理由による場合もあります。香典返しを辞退する際のよくある理由を見ていきましょう。
香典返しを辞退する理由(1)遺族への配慮
「残された家族に大きな負担をかけたくない」「葬儀の費用やこれからの生活の足しにしてほしい」。遺族への思いやりの気持ちが、辞退の理由であるケースです。
一般的に香典返しは、「半返し」とされます。香典返しを適切な形で贈ることは、金銭的にも時間的にも精神的にも相当な負担になるかもしれません。特に親戚や親しい関係であった場合は、遺族の状況を慮り、お返しは不要とされるようです。
香典返しを辞退する理由(2)連名で贈ったり少額だったりするため
例えば、職場の仲間や友人、ご近所の方々が何人かでまとめて香典を贈ってくださった場合には、香典返しは辞退されることが多いようです。これは個人で香典を包むよりも、ひとり当たりの金額が少なくなるためです。半返しで考えると、1人当たり500円になってしまうような場合も考えられます。そのようなときは、そのためにわざわざ労力をかけさせるのが申し訳ないという思いから辞退することがあります。
また、連名でなく1人であっても、香典の額をあえて少額にして、それを理由に香典返しを辞退されることもあります。
香典返しを辞退する理由(3)規定で禁止されている
コンプライアンスへの意識が高まる社会を背景に、政府関係や公的機関の方は贈答に慎重です。そのため、香典返しを辞退されます。これは立場上、もらうわけにはいかないからです。
民間企業でも「一切の贈答品を禁止する」と、厳しく規定している場合もあります。先方にとって迷惑になることもあるので、相手の立場をしっかりと理解しましょう。
香典返しを辞退する方法
「香典返しの辞退は、香典とセットで」と覚えておきましょう。お返しの辞退は香典を渡すタイミングで伝えるのがマナーです。辞退の意思は、簡潔に確実に伝えましょう。
香典返しを辞退する方法(1)香典袋や一筆箋に書き記す
お通夜や葬儀の当日は、不意の用件などで注意が散漫になるもの。香典を整理するときに遺族の目に触れるよう、紙に書いて文字で残すのが一番です。
書いて伝えるのには、2通りの方法があります。ひとつは、香典袋の中袋に辞退する意思を書き添えておく方法です。もうひとつは、一筆箋やカードを利用する方法です。一筆箋やカードに辞退の意思を書き、香典袋に同封しましょう。
香典返しを辞退する方法(2)香典を渡すときに口頭で伝える
香典を渡すときに、受付の方に「香典返しは不要」と伝える方法もあります。ただ、先に述べたように、当日は何かと慌ただしいはず。受付の方がうっかりして遺族に伝え忘れることがあるかもしれません。できれば、文字で書き記すことをおすすめします。
なお、香典袋に書き記してあっても、受付でお渡しする際に「お香典返しはご遠慮いたします。その旨、お香典袋にも記してございます」と伝えると、より丁寧です。
香典返しを辞退する方法(3)葬儀・告別式以外で香典をお渡しする場合
郵送で香典を送る場合
同封するお悔やみのお手紙に辞退の意思を書き添えます。薄墨を使用する必要はありません。黒の万年筆かボールペンで書きましょう。
香典を持参する場合
お悔やみのご挨拶をした後に「お返しのお心遣いはなさらないでください」と直接お伝えすると良いでしょう。
香典返しを辞退する際の書き方や文例
香典返しを辞退する場合の書き方に特に決まりはありません。大切な方を亡くされた遺族の気持ちを損なうことなく、簡潔な文章で丁寧にお断りしましょう。
香典袋に書く書き方・文例
香典袋や香典袋の中袋には、たいてい住所・氏名を記入する箇所があります。その余白に一文入れてください。もしも記入欄がない袋であれば、自分で住所・氏名を記入し、その余白に書き入れましょう。なお、表書き・住所・氏名を薄墨で書くため、辞退の旨も薄墨を使用して書きます。
「お香典返しはご辞退申し上げます」
「お返しのお心遣いはご遠慮させていただきます」
一筆箋の書き方・文例
一筆箋の場合は、5行程度の文章が入りますので、お悔やみの一文も書き添えましょう。宛名→お悔やみ→辞退の意思→差出人の順に書きます。香典袋には折らずに同封してください。なお、本来は薄墨が望ましいですが、黒の万年筆やボールペンでも良いでしょう。
「〇〇様
心よりお悔やみ申し上げます。
誠に勝手ながら、香典返しはご辞退申し上げます。
△△」
「〇〇様
ご冥福をお祈りいたします。
尚、お返しのお心遣いは遠慮させていただきます。
ご遺族の今後のために、少しでも役立てていただければと存じます。
△△」
香典返しの辞退に関する注意点
香典返しを辞退する際の注意点(1)伝えるのが遅い
香典返しは通常、四十九日後の忌明けに送ります。遺族にとっては、意外に短い期間です。香典返しを辞退する意思は、先に述べたように香典をお渡しするタイミングでお伝えするのが親切です。もしも伝えるのが遅くなってしまったら、準備していた香典返しを変更しなくてはいけないなど、かえって手間をかけてしまうことになります。これではせっかくの遺族への思いやりの気持ちが、台無しになってしまいます。
香典返しを辞退する際の注意点(2)少額を包み、意思表示しない
あえて少額を包むことで香典返しは不要のつもりだったとしても、それでは相手に伝わりません。香典返し辞退の意思は確実に伝えましょう。
香典返しの辞退を受けた場合。遺族側の対応について
一般的には、香典をいただいたら香典返しを贈るもの。そのため、「香典返しは結構です」と言われても、その文面通りに受け取って良いものかどうかと迷う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ほとんどが遺族のこれからを案じてくださる方々です。そこは感謝の気持ちと共に甘えさせて頂きましょう。ただし、いただきっぱなしというわけにはいきません。以下に、遺族の対応を挙げます。
遺族側の対応(1)お礼状を出す
忌明けには、品物は贈らずにお礼状のみお送りしましょう。「故人を送る一連の法要がひと区切りつきました。」という報告と併せて、いただいたご厚情へのお礼もしたためてご挨拶してください
メールやLINEといった便利なツールに頼りがちな世の中ですが、それだけにお手紙でのお礼状だと感謝の思いをよりいっそう伝えられるはずです。なお、公的機関や会社の規定で辞退された方へは、このお礼状だけで問題ありません。
遺族側の対応(2)簡単な品物を贈る
親戚や親しい間柄の方が、遺族の今後を考えて高額の香典をくださることがあります。たいていの場合は香典返しを辞退されますが、半返しにこだわらず2,000円~3,000円程度で、相手の好物などを贈ると良いでしょう。その贈り物をきっかけに近況報告もできますので、安心していただけるのではないでしょうか。
この場合、季節の贈り物として「お中元」「お歳暮」の名目にしてはいけません。「お中元」「お歳暮」は継続を前提にした贈り物です。1回切りで終わるため、贈り物の名目は「心ばかり」「御伺い」にします。
遺族側の対応(3)分けられるものを贈る
職場の方が連名で香典を包んでくださり、香典返しを辞退された場合は、分けていただけるようなものを贈ると良いでしょう。職場で召し上がっていただけるよう、個包装のお菓子などがおすすめです。
遺族側の対応で気を付けるべきこと
香典返しの辞退について、「社会的な理由以外は、残された遺族への思いやりであることが多い」とお伝えしました。しかし、ひとつだけ注意すべき理由があります。それは「今後お付き合いを続けたくないから」という場合です。
「故人や遺族と仲違いしている」などの理由から「香典を以てお付き合いを辞めたい」という意思表示である可能性があります。人と人とのお付き合いは繊細です。その際は、状況に応じた適切な対応が求められます。
まとめ
香典返しの辞退には、さまざまな理由があります。ただそのほとんどは、遺族の今後の生活を思っての配慮です。これは日本で古くから、葬儀の際に親戚や近所の人々が駆けつけて助け合う、相互扶助の精神が現代に引き継がれたひとつの形といえるでしょう。
辞退を伝える際は、明確に伝える。辞退を受けた側は、その気持ちに感謝し、お礼状を出す。このようなマナーは、すべて相手の立場に立って考えるとわかりやすいのではないでしょうか。マナーは思いやりです。故人を敬い、遺族に寄り添う。その気持ちが正しく相手に届くようにするためにマナーが大切なのです。
なお、香典返しに関するマナーや不明点などがあれば、下記をご覧ください。