匠に学び、稲の声を聞く「お米番付」第12回大会優秀賞:神田忍さん 品種:「ゆうだい21」

匠に学び、稲の声を聞く「お米番付」第12回大会優秀賞:神田忍さん 品種:「ゆうだい21」

最終更新日:2026-03-24

成分分析計を使わず、審査員の五感で選び抜かれる「お米番付第12回大会」。福島県耶麻郡猪苗代町の神田忍さんから出品された「ゆうだい21」が優秀賞に選ばれた。第10回大会での入賞から2年間、全国各地の生産者を訪ね歩き、おいしいお米づくりの技を磨いてきた神田さん。今回は、この2年間でどんなことを感じ、今年どんなことに取り組んできたか伺った。

悔しいの一言

優秀賞受賞の感想を尋ねると、神田さんの第一声は「正直、悔しいですよね」だった。「この2年間で自分なりに成長できたという実感がありました。だからこそ、今年こそ最優秀賞を受賞できるんじゃないかと期待してしまったんですよね」と苦笑する。

最優秀賞には、山形県南陽市の黒澤拓真さんの「つや姫」が選ばれた。「負けるなら黒澤さんだろうなと思っていました」と神田さんは話す。神田さんにとっての黒澤さんは、目標として名前が挙がる生産者の一人だった。今回の授賞式で黒澤さんと初めて話すことができ、互いの田んぼを訪問し合う約束もしたそうだ。

“元気玉”のように匠の技を集める

2年前の入賞以降、おいしいお米づくりにおいて匠の技を持つ全国各地の生産者たちのもとを訪ね歩いてきた。その匠たちから教えてもらった技が詰まったお米のことを、神田さんは「ドラゴンボールでいう”元気玉”」と呼んでいる。昨年だけでも7か所を巡り、匠たちの技を吸収。こんなに人のところに出歩いている生産者はいない、と周囲から言われるほどだ。生産者同士で盃を酌み交わすことは年に何回かあるが、楽しい話で終わりがち。だからこそ、実際に田んぼへ足を運ぶことを大切にしている。

昨年、神田さんが匠たちから教わった技の中で特に印象的だったのは、田んぼに入れる水の調節だった。その匠は何枚もの田んぼを一枚ごとに異なる土の状態や水持ちに合わせて、朝晩水を止めたり入れたり、わずか数ミリ単位の調整を繰り返していた。神田さんも高温対策としての水管理はこれまで意識していたつもりだったが、「そこまでやるんだ」と衝撃を受けたそうだ。「稲穂が出てから稲刈りをするまでの間の仕上げが、実はすごく繊細で大事だったと気づいた」と振り返る。

昨年の8月末にこの水管理の技を教わった時点で、稲刈りまで残り20日足らず。そこから軌道修正を図ったものの、この技を完璧に行うには、田植え後の中干しの期間をどれくらい取るかなど、何か月も前からの準備が必要だということも分かった。今年は最初からスタートできるため、昨年以上においしいお米ができるのではないかとワクワクしているそうだ。

“猪苗代が最後の楽園”

匠から学んだ水管理の技。今年はその水について、改めて見つめ直すきっかけが他にもあった。元プロサッカー選手で現在は実業家として日本酒造りに携わる中田英寿さんが、神田さんの田んぼを訪れたのだ。その際に中田さんから「日本酒って水がすごく重要。お米もそうなんじゃないの?」と質問されたそうだ。

この言葉をきっかけに水質検査を行なった結果、神田さんの田んぼで使用している磐梯山麓の雪解け水は硬度30程度の軟水だということが分かった。一般的に、軟水の地域ではおいしいお米が育ちやすいと言われている。これまでは身近で当たり前の存在だった水が、おいしいお米づくりをする上で実は最高のものだった。

おいしい水に恵まれ、標高520メートル以上の高冷地である猪苗代町にある、神田さんの田んぼ。この地域では夏になっても比較的涼しく、観測史上では猛暑日を記録したことがない。地球温暖化の影響で全国的においしいお米が採れにくくなったと言われる中、”猪苗代が最後の楽園”というのが、神田さんの自慢だ。お米にとって最高の環境が揃っているからこそ、いかに栽培するか、誰がどんな想いで栽培するかが問われる。かつては米処として有名だった猪苗代町。しかし東日本大震災および福島第一原子力発電所事故による風評被害により、ブランド力はなくなってしまったそうだ。神田さんにとって「お米番付」で結果を残すことは、この地域を再興するための一歩でもある。

データを参考に、稲の声を聞く

「『お米番付』で最優秀賞を獲るためには、おいしいお米の追究をこれまで以上にスピードアップしないといけない」と、考えた神田さん。2年前まで毎年10パターン行なっていた試験栽培を、今年は30パターン行なったそうだ。30パターンのうち20パターンは肥料の構成、残り10パターンは田植えのタイミングや稲刈りの時期などを変えて、それぞれのおいしさを比較して研究する。色々と試すが、化学肥料は一切使わず、JAS有機認証の肥料のみを使用する。お米にストレスを与えずのびのびと生きてもらう、というこだわりは崩さない。

試験栽培のデータを大切にする一方で、稲の声を聞くことも今年は特に意識してきた。稲刈りのタイミングを日々の気温をもとに決める積算温度などの数字も、あくまで参考。稲の状態を実際に見て、ベストなタイミングで刈り取る。「今までデータ重視だった自分が変わってきた」と自身のおいしいお米づくりの感覚が成長している実感があったそうだ。

選ばれるお米へ。今年も走り始める

「お米番付」では、「香り」「ツヤ」「白さ」「食感」「粘り」「甘さ」「喉越し」という、独自の7つの食味審査基準がある。入賞を受賞した2年前は「喉越し」の評価が高かったが、今年は「『香り』と『甘さ』が伸びた実感がある」と神田さんは手応えを感じたそうだ。

神田さんのお米を購入するお客さんの流れもこの2年間で大きく変わった。自身が営む民宿でお米を実際に食べた人が購入する、という以前の流れ以外にも、全国から「神田さんのお米がほしい」と選んで買うお客様が増えた。グルメ御用達の人気焼肉店との取引も始まり、選ばれるお米として認知が広がっている。

「お米番付」の受賞者のみに渡される表彰状には、7つの食味基準に基づく選考結果が、それぞれ棒グラフで記載されている。そのため、この表彰状は神田さんにとって、プロによる”通信簿”だ。「お米番付の最大の魅力は、お米マイスターや食のプロに認められたお米が選ばれること。毎年この”通信簿”をもらい続けたいですね。棒グラフ全てを伸ばして、トータルバランスのとれたお米にすることが目標です」と笑顔で話す。試験栽培のパターンは30にとどまらず、来年からはやりたいことをやれるだけやる予定だそうだ。7本の棒グラフが枠から突き抜ける境地を目指して、今年も神田さんは走り始める。

2026年4月4日(土)から 4月5日(日)の2日間、旗艦店「炊き立て土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」、京都祇園と東京銀座の「米料亭 八代目儀兵衛」にて、神田忍さんの「ゆうだい21」が提供される。お米づくりは神田さんにとって「何よりも大切なもの」なのだそう。種まきから稲刈りが終わるまで、お子さんの行事に一緒に行ってあげられないことも多い。だからこそ子どもたちに誇れるお米づくりをしたい、と2年前の受賞からさらに奮闘してきた。「香り」と「甘み」を乗せてさらにバージョンアップして帰って来た、濃い味の料理にも負けないおいしさが特長の神田さんのお米をぜひ楽しんでいただきたい。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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