どれを食べても「おいしい」と言われる、自身も納得のお米を目指してー「第10回お米番付」優秀賞:下村宣弘さん

どれを食べても「おいしい」と言われる、自身も納得のお米を目指してー「第10回お米番付」優秀賞:下村宣弘さん

最終更新日:2024-02-27

2023年に開催された八代目儀兵衛の「お米番付 第10回記念大会」。節目となるこの年に最優秀賞に選ばれたのは、下村宣弘さんから出品された、佐賀県小城市の「さがびより」。お客様からの「おいしい」の一言を何よりも大切にする下村さん。全国的に見ると珍しいこちらの品種も独自の栽培方法で育てる。下村さんが目指すお米のおいしさと、そのために行なっている独自の方法について伺ってきた。

有明沿いの米どころで、敢えて違うおいしいお米づくり

下村さんの田んぼは佐賀県小城市にある。有明海沿いに位置し、爽やかな潮風が吹き抜ける。田んぼというのは、山の水が直接流れてくる山地にあるのが一般的な印象。しかし、海抜1メートルの干拓地である下村さんの田んぼも、山地に負けないほどお米づくりに適した条件が揃っているそうだ。

この地域は海沿いであることもあり、土壌に海のミネラルがたっぷりと含まれている。また、ダムがあるおかげで水不足にもなりにくい。山と専用の水路でつながっていることで、栄養たっぷりの水が年中ダイレクトに届く。このように、お米づくりに適した環境が元々揃っていて、手間暇かけなくてもそれなりにおいしいお米が自然と実る、小城市。しかし下村さんは、この地で敢えて無農薬、無化学肥料栽培という非常に手間のかかる方法でお米づくりを行う。「人と同じことはやれて当たり前だと思うんです。だから私は敢えて違うことをして、おいしいお米を作りたいと思っています。」と笑いながら話す。

無農薬、無化学肥料栽培で「おいしい」を直接聞きたい

下村さん一家が家業としてお米づくりを始めたのは戦後から。代々受け継ぐ土地を耕し、お父さんの代からお米づくりが本格化していった。そして下村さんの代から、現在の無農薬、無化学肥料栽培を始めた。就農したのは2003年で、ご自身が作った作物を友達や知り合いに食べてもらって「おいしい」と言ってもらったことがきっかけだったそう。

下村さんのお米は現在、基本的に自社のオンラインショップでしか販売を行っていない。この販売方法をとっているのは、自分が育てたお米を誰が食べているか分からない状態ではなく、直接お客様に届けることで「おいしい」の一言が聞きたいから。お米のおいしさと向き合う中で「よりおいしいお米を作るためには、有機肥料を使用した方がいいのではないか。」と考えるようになり、今の栽培方法に辿り着いた。

おいしいお米を収穫するためには、虫や病気を寄せ付けない丈夫な稲を育てることが重要だ。「人間と同じように稲も生き物」という考えのもと、栄養たっぷりのものを与えて健康になってもらう、というのが下村さん流。現在も肥料メーカーの方と相談しながら、毎年新しい肥料を試しているそうだ。以前は鶏糞を使用していたが、今は魚を発酵させてアミノ酸が豊富な有機肥料を使用するなど、改善を重ねている。

肥料に加えて、栄養たっぷりの土づくりにも力を入れる。植物由来のミネラル分を土に補給することで微生物がそれを分解し、土が育つ。その他にも、田んぼに乳酸菌を撒いて土壌の発酵を促すなど、自然との共生に目を向けた持続可能なお米づくりを目指しておられるそうだ。

もっちりツヤツヤ!知られざる名品種「さがびより」

今回受賞した「さがびより」は、基本的に佐賀県内でしか作られていないため、県外ではまだ馴染みの少ない人も多いのではないだろうか。実は2010年から食味ランキングで連続して特Aを受賞するほどおいしいと評判が良く、佐賀県では最も作付面積が多いほど、隠れた名品種なのだ。

中でも下村さんの「さがびより」は噛めば噛むほど甘いと有名。「人と違うことがしたい」と考える下村さんは、この「さがびより」もマニュアルと違った栽培方法を行っているそうだ。もっちりツヤツヤで粒立ちがいいと言われ、有明海で採れた海苔と合わせておにぎりにすると絶品なんだとか。「今回お米番付で優秀賞を受賞したことで、『さがびより』という全国的にはまだ知られていないこの品種のおいしさに説得性が増しました。これに恥じないように、これからもずっとおいしいと言っていただけるさがびよりを直接届けていきたいです。」と下村さんは話す。

異常気象と立ち向かながら、耕す面積を増やす

下村さんの田んぼでは、二毛作を行っている。冬の間栽培していた麦の刈り取りを6月初旬に行い、同月末日に稲の田植えを行う。8月終わりから9月頭に稲の穂が出る、出穂が起こり、お米の実が作られ始める。おいしいお米を形成させるには、この時期の気温はとても大切。通常25度前後が適切な気温と言われているが、近年は異常気象に悩まされる生産者さんも多い。真夏の田んぼのお水はお風呂のお湯より熱くなることもあり、酷い時は50度にも達する。下村さんご自身も、5年ほど前からじわりじわりと気象の異変を感じていた。九州は東北などに比べて基本的に気温が高いため、暑さ対策のために田んぼの水を頻繁に入れ替えるなど工夫をしている。

全国的な夏の猛暑による影響は、稲の生育だけにとどまらない。作業中に熱中症になってしまう生産者さんも多くいる。高齢の生産者さんの中には引退する方も多く、後継者不足も全国的に深刻化してきている。その対策の一貫として下村さんは、引退された生産者さんから田んぼを借りていき、自身が代わりに耕している。耕す面積は年々増えていくが、熱中症にならないように気をつけながら若いスタッフたちと一緒に、機械などを有効的に活用してお米づくりを行っている。

“一等地”を決めず、全て受賞級のおいしさにする方法

「受賞したお米と同等のおいしさのお米は、うちにはいくらでもある!と自信を持って言えます。」と話す、下村さん。実はこうやって明言できる生産者さんはとても少ない。なぜなら生産者さんの多くは、収穫したお米の中から一番おいしいものを選んでコンテストに出品するからだ。同じ生産者が耕す田んぼでも、土壌などのわずかな生育条件の違いによって、実るお米の味わいは変わってくる。それまで自分と違う人が土づくりを行っていた、借りたばかりの田んぼだと、なおさら味わいの違いが生まれやすい。そのため生産者さんの中には自身の持つ田んぼの中に、必ずおいしいお米が収穫できる“一等地”を定めている方もいる。この場合コンテストには、その“一等地”で収穫したお米しか出さないし、収穫後の選別を通常よりも丁寧に行うことも場合によってはある。

一方で下村さんは、コンテスト用の“一等地”を決めていない。また、収穫した後もコンテストのために特別な処理は全く行わず、普段売っている状態で出品する。それまで他の人が耕していた土も、丁寧に育てていけば段々と自分色に染まっていくのだそう。“一等地”を決めない代わりに、収穫したお米は毎年、食味計を使わず自身の舌でおいしさを確認してから出荷する。結果的に、下村さんのお米はどれをとっても全て“一等地”で育ったお米と同等のおいしさに仕上がる。

お米番付で、納得の最優秀賞を目指して

お客様からの「おいしい」のという言葉を大切にする下村さんにとって、八代目儀兵衛のお米番付は一番力が入るコンテストなのだそう。下村さんのお米はこれまで、食味計などの機械で測定する他のコンクールで良い評価はもらえても、受賞に至ることはなかった。しかし、出品されたお米全てを食べ比べで審査するお米番付では、初応募の2021年に敢闘賞を、今年は優秀賞を受賞できた。

特に今年の受賞は、下村さんにとって驚きの結果だったそう。「表彰式の際に、最後に名前が呼ばれていないのが私と最優秀賞の方だったので、非常にドキドキしました。その後すぐに自分の名前が呼ばれてほっとしたんです。」と話す。出品前に食べ比べをした際には、おいしいが最高の出来栄えではないと個人的に自信が持てなかったのだそう。「自分自身納得の出来栄えではない年に最優秀賞にならなくてよかったです。最高のお米を作って、納得の最優秀賞をとれるように来年以降も頑張りたいと思います!」と、更なる高みを目指す意気込みを語ってくださった。

2024年3月2日(土)から3月3日(日)まで、米料亭 八代目儀兵衛、京都祇園と東京銀座の両店舗にて下村さんの「さがびより」が提供される。食べた人に「おいしい」と言ってもらうために、独自の方法で栽培して完成した、下村さんのもっちりツヤツヤ「さがびより」。県外ではあまり口にすることのないこのおいしい粒立ちを、ぜひこの機会に味わってみてください。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
三ツ星日本米穀商連合会認定お米マイスター取得

広島女学院大学栄養学科を卒業後、米卸業者に就職。同社で社長秘書・広報・営業とマルチに活躍。上京後、米麹や日本酒などの米加工食品について学ぶ。現在は「お米ライター」として、お米そのものから米加工食品まで、お米の魅力を発信し続けている。ライターの傍ら、お米由来の化粧品・米麹甘酒の広報支援やお米のECサービス、日本酒新ブランドの立ち上げに携わるなど、お米のマーケティング支援においても幅広く活動中。

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