最終更新日:2023-11-02
お米番付2022の入賞を受賞したのは、清水久美子さんによって育てられた風さやかだった。清水さんの田んぼがある長野県松本市島内は、昼夜の寒暖差が激しく、上高地から綺麗な水が豊富に流れてくる。お父さんの代から受け継いだ土地を守るため、冬のうちから始める土づくりと、味への拘りがそこにはあった。
土は財産
清水さんの田んぼの周りにはアップルミントが生えている。これは害虫を防ぐために植えているもの。お父さんの代から続くお米づくりには、農薬は極力使わず、化学肥料は一切使っていないそうだ。代わりに冬のうちからおいしいお米ができる土づくりを始める。鶏糞や米糠、籾殻、クズ豆など有機のものを堆肥として活用することで、微生物の循環を生み出す。
この土から始めるお米づくりの背景には、清水さんがお父さんから受け継いだ「土は財産」という言葉があった。清水さんの田んぼではお父さんの代から続く変わらない光景に出会える。近年見かけることが少なくなったおたまじゃくし、透明海老や稲に張られた蜘蛛の巣など、たくさんの生命があるお陰で田んぼの生態系が循環している。お父さんの代では、まだお米づくりを土づくりから始める農家さんは少なかった。おいしいお米が育つ土は1年2年でできるものではない。慣行栽培に比べて体力を消耗してしまうが、ずっと続くお父さんの財産である土を清水さんは守り続けている。
目標はお父さんの味
清水さんが代表を受け継いだのは12年前。お米づくりが大好きなお父さんが体調を崩されたことがきっかけで代表になる3年ほど前に地元に戻り就農した。お父さんのお米づくりは小学生の頃から見聞きして教えてもらったが、現場に立つと一筋縄ではいかない。そのため清水さんは本に書いてあることよりも、経験と感覚を大切にされているそうだ。
目指すのは「お箸が進むお米」。どんな辛いことがあっても人は食事をする。食事の時は日常の色んなことを忘れて元気になって欲しいから、自然と食事が楽しくなるお米を作ることができたら。清水さんご自身も子供の頃からお米が大好きで、おかずを忘れてお米ばかり食べていたため、よく叱られたそうだ。「お米はお米で食べたくなってしまうほど、お父さんのお米がやっぱり一番おいしかった」幼い頃自然とお箸が進んでしまっていたあの味は忘れられないそうだ。お父さんのお米の味が今でも清水さんの目標だ。
お箸が進む、風さやかを知って欲しい
今回受賞した風さやかという聞き慣れない品種は長野県から生まれたお米。まだあまり知られていない風さやかを食味計を使わず人の五感で評価してもらいたいという思いから今回お米番付に応募された。粒はしっかりとしており、さっぱりとしながらも食べ応えのあるお米だ。冷めても香りと甘みがありモチモチとしているため、お箸がとにかく進む。そのためお弁当などに入れてもおいしいと地域の方から好評だそう。「長野県生まれのおいしい風さやかをもっと知って欲しい」清水さんはそんな思いでこの品種が生まれた頃からずっと作り続ける。今回の入賞がきっかけでより多くの人に知ってもらえたらと思っているそうだ。
土づくりのための新たな挑戦
受賞して「やっとスタートが切れた」と語る清水さん。更に美味しいお米づくりを作るための土づくりに取り組む。肥料づくりなど新しいことにも早速、挑戦しているそうだ。
お米づくりは1つの作業を1年に1度しか行わない。田植えや稲刈りが1年に1度なのと同じで、冬場の土づくりも1年に1度しか行わないため、10年農業を行っていても10回しか経験ができない。1回1回の経験を大切に、現場での挑戦を常に行っていきたいと話す清水さん。清水さんのお母さんは清水さんのお米づくりを見て「お父さんも同じように挑戦していたね」とよく話されるそう。お父さんの思いを継いで、お父さんと一緒に挑戦を続ける清水さんの歩みは終わらない。
5月13日(土)から5月14日(日)まで、米料亭 八代目儀兵衛、京都祇園と東京銀座の両店舗にて清水さんの風さやかが提供される。清水さんも自身のお米を料亭で食べるのが楽しみだそうだ。「皆さんにどんなふうに食べてもらえるか、どんなお料理と相性が良かったかとても気になる」と嬉しそうに話されていた。