“究極の普段食”を目指して、走り始め続けるー「第10回お米番付」入賞:神田忍さん

“究極の普段食”を目指して、走り始め続けるー「第10回お米番付」入賞:神田忍さん

最終更新日:2024-05-15

八代目儀兵衛の「お米番付 第10回記念大会」。節目となる今年の入賞として選ばれたのは、福島県耶麻郡猪苗代町の神田忍さんから出品された「ゆうだい21」でした。もともと米どころとして知られるこの地域で、敢えて自身のお米のおいしさをブランドとして確立されてきた神田さん。走り続けるのではなく、走り“始め”続ける神田さんが目指す“究極の普段食”とはどんなお米なのか、就農からこれまでの軌跡を辿ります。

就農直後の東日本大震災を経て、人を虜にする神田さんのお米。

神田さんのお米は「今まで食べたお米よりおいしい」「炊いた時、炊飯器から出る湯気の匂いが他のお米と違う」と、そのもっちりとした食感と格別な甘みが人々を虜にする。ネットショップを3年前に立ち上げ、現在は個人のリピート購入者が大半を占めている。神田さんがお米作りと並行して営む民宿でも提供しており、その味に感動した宿泊客が購入することも多いそうだ。

そんな人を虜にするお米を届ける神田さんが就農を決意したのは、2011年2月。東日本大震災および福島第一原子力発電所事故が起きる2週間前だった。震災翌年から2020年まで、福島県では放射性物質の安全確認のため全量全袋検査を実施していた。幸い、神田さんの地域では放射性物質が検出されることはなかったが、原発がある同じ福島県内ということで県外からの購入が激減。福島県内の方しか買ってくれない時期もあったそうだ。それまで会津地域のお米のおいしさは、魚沼地域に次ぐ“会津ブランド”として愛され、個々の生産者がブランディングをせずとも人気だったが、この原発事故を機に状況は一変。神田さんは“会津ブランド”に頼らず自身の力でブランディングすることを決心した。そして、就農3年後から自身のお米のおいしさを確認するために、お米のコンクールに出品するようになった。

10年以上、走り“始め”続ける神田さんのお米づくり

「走り続けることではなくて、走り“始め”続けること」をご自身のお米づくりのテーマとして掲げる神田さん。お米づくりは1年に1度しかできないため、自分が理想とするおいしさに最短で辿り着くためには工夫が必要。“毎年、試験栽培用の田んぼを10枚以上用意し、少なくとも10通りの新しい栽培方法を考えて試す”という課題を自分に課す。

もし10通りの試験栽培のうち成功したものがあれば、翌年はそこから更に細分化した10通りの栽培方法で試験をする。こうした新たなチャレンジの繰り返しを10年以上続け、走り“始め”続ける。何通りも重ねて一番変わったものを伺うと「やはり土の性質ですね。かなり赤字でしたが、試験栽培だったのでミネラル成分をめちゃくちゃ投入しました」と答える、神田さん。10年の間に肥料の組み合わせやタイミングを少しずつ変えた積み重ねによって、これまで以上においしいお米が実るようになったそうだ。

深刻化する異常気象。神田さんが考える対策

神田さんの田んぼがある猪苗代町は1年を通して気温が低く、標高約520メートルにある豪雪地帯。冬には1メートル以上雪が積もり、春にはその雪解け水が田んぼを潤す。夏も涼しく、かつては農業試験場冷害試験地が設けられていた。

そんな涼しい猪苗代町ですら、昨年の夏は暑かった。例年は朝が寒くなるお盆明けに、稲の穂が出る“出穂期”があるが、今年はこれまでお米づくりをしてきた中で一番早く、お盆前には出穂したそうだ。出穂期に気温が高いと、おいしいお米が実りにくくなってしまう。この対策として神田さんは昨年、徹底した水管理を行って稲を冷やすことを徹底。さすがはプロ、臨機応変な対応を行うことで過酷な気象状況を乗り切った。

「昨年は桜の開花も早かったので、その時点で気候の異変に気づいて、田植えの時期を遅らせるなど対策を行うべきでした。春の時点で気象分析を行い、それをもとに秋の稲刈りまでシミュレーションしてからお米づくりに取り掛かることが大切だということが、今回の教訓でしたね」と、今後どのようにしておいしいお米づくりを行っていくかを考える神田さん。年々深刻化する気象状況の中でも前を向き、次の収穫に向かって今年も歩む。

「お米番付」での気づきと、他生産者さんとの交流

“人が食べておいしいお米”を掲げ、審査が全て官能検査である、八代目儀兵衛の「お米番付」に今年初エントリーした神田さん。早速入賞受賞を果たし、「非常に光栄です。これまでにさまざまなコンクールで賞をいただいてきましたが、今回が一番嬉しかったですね。特に最終審査で名立たる食のプロが評価してくださるのは生産者として非常に有難いです」と話す。

今回節目となる「お米番付 第10回記念大会」は例年と違い、表彰式後にトークセッションが行われた。その中で、「お米番付」の「U-5部門」で受賞された就農5年以内の良食味生産者さんから、お米の販売先の拡大をどうしていくかという議題が上がった。神田さんはこのトークセッションを傍聴し、これまで販路の拡大が後回しになってたことを改めて再認識したそう。「今回の受賞をきっかけに、これからは販路拡大にも尽力したいと考えています」と語る。お米のコンクールにはトップクラスの生産者さんが参加されているので、交流することでさまざまな学びがある。神田さんも早速、表彰式後の懇親会で親しくなった他の生産者さんの田んぼへ実際に訪れ、販売のヒントを得るために詳しく話を聞こうと計画しているそうだ。

人が食べて日本一おいしい、“究極の普段食”を目指して

今後の目標を伺うと「目指すはやはり、“人が食べて日本一おいしいお米”です。だからやっぱり、『お米番付』で最優秀賞を受賞したいですね。トップを取るまで挑み続けます!」と意気込みを宣言。神田さんの田んぼは全部で25ヘクタールあり、「ゆうだい21」の他に、「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「天のつぶ」「ミルキークイーン」を栽培されている。最近、それぞれの品種を栽培する場所を変えたらしい。猪苗代町には、近くにある磐梯山でかつて起こった噴火の影響により、粘土質や砂状などといった様々な性質の土壌が混在するため、神田さんは田んぼ1枚1枚を分析し、その品種がおいしく実る場所を見極めて植える場所を決めている。以前は食味計で計って良い数値が出る砂質の土壌で栽培していたが、今年から八代目儀兵衛の「お米番付」のように“人が食べておいしいお米”を目指し、ミネラル豊富な田んぼを厳選し、無化学肥料栽培にも挑戦していくそうだ。

それに加えて「毎日食べることができる“究極の普段食”も目指したいです」と話す。おいしいお米を作っても、毎日食べることができないほどの高い価格で売りたくない、というのが神田さんのポリシー。育ち盛りのお子さんがいるご家庭でも、1年中おいしいお米を食べることができるような環境を作り上げることが神田さんの目標。万人が手に取りやすいお米を目指すため、コスパにもこだわった栽培にも挑戦していく予定だ。

「おいしかったらおいしいって言ってもらえる、やりがいのあるお米づくりは、私にとって自己実現の場です。もう、おいしいお米づくりの沼にハマっちゃいました(笑)。一生お米づくりを続けたいと思ってますし、一生走り始め続けたいと思います」と語る神田さんからの言葉からは、就農直後に震災を経験し、そこから13年間もおいしさを追究する、生産者魂が感じられた。

6月8日(土)から6月9日(日)まで、米料亭 八代目儀兵衛、京都祇園と東京銀座の両店舗にて神田忍さんの「ゆうだい21」が提供される。ご来店される方はまずはそのまま、神田さんが生み出した格別の粒立ちと甘み、喉越しをぜひ感じてみてください。その後におかずと合わせると、口の中で味わいが深まって、きっと新たなお米のおいしさが見つかるはず。神田さんによると、和食の中でも特にお肉料理との相性がとても良いそうです。ぜひお好みのおかずと一緒に合わせてお愉しみください。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
三ツ星日本米穀商連合会認定お米マイスター取得

広島女学院大学栄養学科を卒業後、米卸業者に就職。同社で社長秘書・広報・営業とマルチに活躍。上京後、米麹や日本酒などの米加工食品について学ぶ。現在は「お米ライター」として、お米そのものから米加工食品まで、お米の魅力を発信し続けている。ライターの傍ら、お米由来の化粧品・米麹甘酒の広報支援やお米のECサービス、日本酒新ブランドの立ち上げに携わるなど、お米のマーケティング支援においても幅広く活動中。

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