【番付受賞米シリーズ】1000通り以上挑戦、辿り着いた答えーお米の未来を変える“稲が上機嫌になるお米づくり”

【番付受賞米シリーズ】1000通り以上挑戦、辿り着いた答えーお米の未来を変える“稲が上機嫌になるお米づくり”

最終更新日:2023-11-11

お米番付」の歴代受賞者の中でも、食べた瞬間に感動するほど「粒の生きた」上質なお米をつくる 8 名の生産者を厳選した「番付受賞米シリーズ」。今回そのうちのひとつとして選ばれた辻典彦さんのヒノヒカリは、今年で第10回大会となる「お米番付」の第4回と第5回にて連続受賞歴がある。“米・食味鑑定士”であるご自身の舌を活かし、独自の栽培方法に挑戦し続け生まれたお米。橋本儀兵衛も「芳醇な香りと飲み込んでからも口に残る鮮烈な甘みが印象的なんです」と絶賛する。1000通り以上試して辿り着いた辻さんの“稲が上機嫌になるお米づくり”とは一体何だろうか。今回は日本のお米の未来を変える可能性を秘めた、辻さんのおいしいお米に迫ってきた。

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隠れた米どころ、京都府南部

 辻さんの田んぼは京都府南部の八幡市に位置し、おいしいお米を育むために欠かせない水が豊富にある。日本最大の湖、琵琶湖を源とする宇治川、奈良県や三重県から集まった木津川、京都嵐山から流れてくる桂川が流れる。これら3本が出会う“三川合流”地点に八幡市は位置し、関西に流れる水のうちその多くが集まる。また、京都府南部は地下水が豊富にあることから、古より“京都水盆”と呼ばれている。辻さんの田んぼは、近くの男山の山頂から清らかな水が絶えることなく湧き出ているそうだ。

 八幡市は現在のように川に堤防がなかった時代に、氾濫が多かった地域と言い伝えられる。しかしその氾濫によって生まれた肥沃な土壌も辻さんの田んぼの特徴のひとつ。辻さんの持つ約25枚(25反)の田んぼの土壌はそれぞれ違った性質を持っている。川の近くに位置する田んぼは上流から流れてきた栄養たっぷりの砂状の土壌。一方、川から遠くなると保水力の高い粘土状の土壌となっていく傾向があるそうだ。この結果、ヒノヒカリの1品種のみ栽培していても、田んぼ毎においしさが変わる。「よく農家さんは“1年で1度しかお米づくりはできないから25年農業を続けても25回しか経験できない”と言われるけれど、私は1年で25通りのお米づくりを試すことができるんですよ」と辻さんは語る。この考え方で計算すると、辻さんはこれまでに1000通り以上のお米づくりをしてきたこととなる。そのため、他の農家さんからおいしいお米づくりの秘訣について聞かれることも多くあるそうだ。

 京都府南部の夏はとても暑い。しかしその一方で、このような水や土壌に恵まれ、長い歴史の中で都の食事を支えてきた隠れた米どころ。辻さんは誰よりもこの地域のポテンシャルを信じてお米づくりを続けてきた生産者の一人だ。最近では京都府南部のヒノヒカリも、食味ランキングで特Aランクを獲得するなど、この地域のお米も少しずつ知名度も上がってきている。

挑戦を続けて辿り着いた“稲が上機嫌になるお米づくり”

 「お米は育てる地域の自然環境だけではなく、育て方によっても味が変わるんですよ」と語る辻さん。ご自身が新しく耕し始めた田んぼのお米は、最初の年はご自身のお米と違う味がするが、5年程育て続けると味が近づいてくるそうだ。生産者さんの耕し方によって土壌の性質やそこに住む生き物は違い、その結果お米の味も変わってくるのかもしれない。無農薬や減農薬でお米を栽培する辻さんは、肥料も古くから使用されてきた尿素という安心素材を活用している。

 お米づくりは自然に近いお仕事と思われがちだが、人間の手によって雑草が生えないように整備された田んぼは、厳密に言うと不自然な環境とも言える。辻さんのお米づくりは稲をなるべく自然に近い状態で育てる“稲が上機嫌になるお米づくり”がモットー。その方法のひとつとして、稲に光がたっぷり当たるように苗同士の間隔を空けて田植えをしている。こうすることで稲同士が争うように茎を高く伸ばさなくても、全てに太陽の光が行き渡る。“稲が上機嫌になるお米づくり”を続けたことにより、辻さんの田んぼには結果的においしいお米が実るようになっていった。「稲のご機嫌を取っている様で最終的には、おいしいお米が実って欲しいという私のエゴなのかもしれません」と微笑む辻さんからは稲への優しさが伝わってくる。

 この工夫の他に、田植えや稲刈りのスケジュールも稲にとって最適な時期に行う“適期栽培”を心がけているそうだ。現在の日本のお米づくりは、人手が集まりやすいゴールデンウィークの頃に田植えを済ませ、暑い夏の時期に花が咲き、9月頃には既に刈り取りが始まっているところが多い。一方辻さんはこれよりも遅い7月頃に田植えを行い、収穫は10~11月頃。その理由は四季がはっきりした京都南部の寒暖差がお米のおいしい甘みを生み出すから。気温が必要以上に高い時期に花が咲くと実まで栄養が行き渡らず、未熟米が増えてしまうことが多いそうだ。実際昔は、辻さんと同じ梅雨時期に“田植え休み”と言って田植えが行われる地域が多く存在した。新米を早く食べたいという人間の願望から、稲にとって過ごしやすい本来の自然のリズムをいつの間にか私たちは忘れてしまっていたのかもしれない。初物で縁起が良い新米も特別だが、年を越して新米として扱われなくなったお米も保管期間に実は味わい深くなっているため、両者の特徴を是非楽しんで欲しいと教えてくれた。

 このように周囲の農家さんがあまり行っていないことにも果敢に挑戦する辻さん。これは辻さんのお父さんの「おいしいお米づくりのためにはなんでも挑戦してみよう」という考え方が源となっている。実は“適期栽培”もお父さんの遺志を継いだお米づくり。お父さんの熱い想いが辻さんのお米づくりにも活きている。

 “稲が上機嫌になるお米づくり”を続けたことによって、辻さんの田んぼには益々甘くて風味豊かなお米が実るようになった。その評判は瞬く間に広がり、京都の有名な料亭さんからお声がけされるほど。近年では辻さんのお米づくりが地域の農家さんにも影響を与えている。実際、辻さんの地域では稲と稲の間隔を広く空けた植え付けをする農家さんや、“適期栽培”をされる農家さんが以前よりも増えたそうだ。

“米・食味鑑定士”として収穫後もおいしさに対して貪欲に

 辻さんのおいしいお米づくりのための挑戦は栽培方法だけに止まらない。お米のソムリエと呼ばれる“米・食味鑑定士”を取得し、毎年100種類以上もの全国各地のおいしい米を食べ比べることで、その経験がご自身のお米づくりの参考にもなっている。一方お米の好みは人それぞれであるため、ご自身の感想だけでなく客観的な意見も参考にしている。例えばお米の好みが真逆のお兄さんの意見は、収穫したご自身のお米をお客さまに提供する際に非常に参考になっているそうだ。また、辻さんのご長女も“米・食味鑑定士”の資格を小学校5年生の時に取得している頼もしいモニターの1人だ。他者からの感想も参考にして、主観だけでなく客観的にお米のおいしさを感じるよう、辻さんは常に心掛けている。

 「カレーのような濃い味付けのお料理でも、おいしいお米であればお米の良さが引き立つと思うんです」と最高においしいお米をお客さんへ届けることに貪欲な辻さんは、収穫後の管理も丁寧に行う。刈り取りが終わったら、全て精米する前にご自身の舌で味を確認する。前述したように、田んぼ毎に土壌の性質も違うことからその全てが同じ味ではないそうだ。そしてその結果を元に数種類の保管庫を使い分ける。最後にお客さんから丁寧に伺ったお米の好みに合わせて出荷する。辻さんのように出荷する直前までお米の管理に手間暇をかける生産者さんは非常に少ない。本来のおいしさを大切にしたこの大変な管理について辻さんは「ただ、おいしいお米が大好きな食いしん坊なだけなんです」と楽しそうに語っていた。

未来のお米が変わる一歩になれば

 ご自身の挑戦が次の時代のおいしいお米づくりに少しでも繋がればと考える辻さん。近年、昔の日本のお米は現在に比べておいしかったと言われることが多い。しかし、最高においしいお米のために挑戦を続けることで、現状は変わるのかもしれない。そしておいしいお米と出会う消費者が増えることによって、もしかすると留まることを知らない日本のお米の消費量の減少も改善されるかもしれない。そんな日を夢見ながら、辻さんは誰もが想像しなかったような挑戦を今日も続ける。

 最後に「番付受賞米シリーズ」について辻さんは「八代目儀兵衛さんの目指す甘くておいしいお米と私の好みは本当に似ています。今回レジェンド米として私が出させていただくお米も、本当は独り占めしたいくらい1番美味しいと思うものを選びました。またレジェンド米に選ばれた他の生産者さんの個性豊かなおいしいお米も楽しみですね。是非今回をきっかけに、おいしいお米の発見を楽しむ消費者が増えてくださることを願っています。」と話してくださった。

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【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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