最終更新日:2023-11-11
「お米番付」の歴代受賞者の中でも、食べた瞬間に感動するほど「粒の生きた」上質なお米をつくる 8 名の生産者を厳選した「番付受賞米シリーズ」。今回そのうちのひとつとして選ばれた水品栄人さんの新之助は、今年で第10回大会となる「お米番付」第7回大会にて受賞歴がある。新之助という品種は新潟県でしか栽培されていないお米だ。病気にかかりやすく、育てることが難しいと言われる。また、栽培方法や出来栄えにも基準がある品種のため、その決まりの中で唯一無二のおいしさを追及することは難易度が高い。しかし工夫を凝らしてやっと実った水品さん渾身の新之助は、たっぷりの甘みと奥深い旨みが口いっぱいに広がる。更に大粒で食べ応えがあるため、県外からのファンも多い。今回は水品さんの丁寧な育て方や、大変なお米づくりの中でのやりがいを伺ってきた。
新潟県刈羽郡で、おいしく育った令和5年産新之助
水品さんの田んぼがあるのは新潟県刈羽郡。この地域には山からの自然流水に加えて溜池もあるため、バルブを撚ればいつでも水が出てくる。1kgのお米を作るために必要なお水の量は約5,000リットルと言われるほど、お米づくりには大量の水が必要。稲が欲している時にいつでもお水をあげることができるように新潟県刈羽郡ほど整えられた地域というのはなかなか無く、そのこともあってかこの地域には昔からお米農家さんが多い。土壌の性質は重粘土質でねっとりとした土が多く、これもお米に適した環境として言われている。このお陰で、お米のおいしさに大きく影響する肥料の効きが良い傾向がある。
非常にデリケートで病気になりやすい新之助。水品さんの頭を特に悩ませるのが、いもち病というカビによって感染する病気。葉っぱに斑点状の模様が生まれて光合成ができなくなることで、酷い場合は枯れてしまうことがある。田植えが終わり「さあこれからおいしく育てるぞ」と思っている初期の段階に患い易いため、農家さんにとって心的ダメージが大きい稲の病気だ。今年はこの、いもち病をうまく抑えることができたため、例年に比べて特に自信を持ってお届けできるおいしい新之助に仕上がったそうだ。
安心安全のために惜しまない手間暇
水品さんはお米づくりにおいしさだけでなく、安心安全も追い求める。それは栽培方法に基準値が定められている新之助も同様で、その数値の中で工夫を凝らす。可能な限り農薬を減らし、肥料は有機のものを調整しながら投与する。更には有機肥料の消化を良くしてあげるために、人間で言うところの整腸剤のような役割を果たす、稲に優しいミネラル肥料も与えるなど稲にも人にも優しいお米づくりを行っている。
農薬の量を極限まで減らして栽培する水品さんの農作業は、雑草との戦いだ。雑草がなるべく生えないように、独自の工夫をされている。水を張った田んぼを田植え前に耕す、代掻きを何度も行うことで、雑草の種を浮かせたり土に埋め込む。それでも生えてきた雑草は除草機で取り除くが、完全に行うことは難しいため、結局手作業が多くなってしまう。手間暇のかかる作業だが、口にする消費者さんのためにその労力を惜しまない。
新之助以外の品種は栽培基準が決められていないため、更に雑草を生えにくくするための独自の栽培方法を行っている。例えば田植えも通常は水を少し抜いて行うが、敢えて水位が高いまま大人になった苗、成苗を植えることで、雑草の数をある程度抑えることができる。他品種の無農薬栽培で知り得たノウハウのうち、新之助に生かすことができるものを見つけたら、今後取り入れていきたいと思っておられるそうだ。
ただでさえ栽培難易度の高い新之助だが、近年の地球温暖化の影響により更に育てにくくなってきている。夏の気温が高くなると秋に実るお米のおいしさに大きく影響する。この暑さを稲が乗り越えるためには、土づくりが重要だと考える水品さん。健康な土を作ってくれる微生物のエサとなる微量要素も活用しているそうだ。この微量要素を活用したお米づくりは水品さんのお父さんの代から10年以上行っている。
お米づくりに夢中。続けてこれた理由
水品さんのお家は代々お米づくりをされてきた。現在耕している田んぼの中には100年近く続くものもあるそうだ。2007年に起きた新潟中越沖地震をきっかけにご実家に帰ってきた水品さん。お手伝いから始め、24歳の時に就農した。お米づくりに夢中になれたきっかけは、消費者さんの生の声だった。県外のイベントでご自身が育てたお米を消費者の方に試食してもらって「おお、兄ちゃんの作った米はうめえな」と言ってもらった経験は今でも忘れられないそうだ。「自分で作ったお米をおいしいって言ってもらえるのは、一生懸命お米づくりを行う農家にとっての一番の醍醐味だとこの時感じました」と当時を振り返る。この経験から水品さんは、お米をなるべくご自身の手で直接お客様に届けるようにされている。東京ドーム3個分以上の面積がある田んぼで収穫されたお米のうち、その7~8割は消費者さんに直接販売されている。リピート購入される方も多く、年間予約で埋まるほど人気だ。
お客様との直接やり取りに拘ってきた水品さんだからこそ気づいたことがある。一世帯あたりのお米の消費量が減ってきていることを近年実感するそうだ。現在のようにネットショップがなかった時代は電話で消費者さんからのご注文を受けていた。その当時からの長い付き合いとなるお客様の中には、お子さんが独立してお米を食べる人数が減ってしまったり、ご自宅でお米を炊く回数が減った方も増えているのだそう。
初めて水品さんのお米を口にした消費者さんは「甘みが強くておいしい」と病みつきになってまた購入してくださる。そして回数を重ねるごとにそのおいしさが生活の一部となっていく。しかし、ふとした瞬間にお米のおいしさを改めて感じた消費者さんから、丁寧なメールが送られてきたり、お振り込み用紙に「いつもありがとうございます。おいしいです」とメッセージをいただくことがあるそうだ。「お米づくりに対する誇りとプライド、そしてお客様からのおいしいという感想があったから、これまで大変な中でもお米づくりを続けていられたんじゃないかなと思います」と語る水品さんからは、おいそれといかないお米づくりに対する熱い気持ちを感じた。
水品さんが考えるお米の未来
留まることを知らないお米農家さんの減少問題。この50年間で約7割ほど減少してしまったと言われている。この現実について水品さんは、ご自身がお米づくりに夢中になったきっかけと同じような経験を20~30代の若者にも体験してもらうことで、未来のお米づくりへの参入者も増えるのではないかと考える。今後はご自身でそういった農業体験のイベントも開催していきたいそうだ。
お米をお客様に直接届けることに拘る水品さんが、お米屋さんにご自身のお米を提供することは珍しい。今回のレジェンド米も、お米のおいしさを本気で追い求める八代目儀兵衛になら丹精込めて育てた新之助を出品してもいいと思ってくださったからだそう。おいしいという感情は人が抱くもののはずなのに、多くの食味コンテストはおいしさを測る機械、食味計を使用する。しかし水品さんのように安心安全にこだわった、有機肥料を使用して栽培されたお米を食味計で測ると、その成分の影響でおいしいと判断されにくい傾向にある。元々お米番付にエントリーされたきっかけも、食味計に頼らず全て試食し、人の味覚を重視する本当においしいお米を決めるコンテストだったからだったそう。
「八代目儀兵衛さんからは、生産者を重んじておいしいお米を本当においしい状態で食べてもらうための、お米屋さんとしての情熱を感じます。召し上がる方は、思い思いの食材と合わせて是非、私のお米を生活の一部として溶け込ませてください。今回のレジェンド米をきっかけに、何気ない毎日の食卓に並ぶお米が当たり前のようにおいしい存在になってくれたら嬉しいです」と話してくださった。