異常気象の中、愛され信頼される「しまさき農園のお米」を生み出すー「第10回お米番付」入賞:島崎真人さん 品種:つや姫

異常気象の中、愛され信頼される「しまさき農園のお米」を生み出すー「第10回お米番付」入賞:島崎真人さん 品種:つや姫

最終更新日:2024-08-19

八代目儀兵衛の「お米番付 第10回記念大会」。節目となる今年の入賞として選ばれたのは、山形県南陽市の島崎真人さんから出品された「つや姫」でした。多くの生産者が夏の猛暑と雨不足という過酷な環境に悩んだ、令和5年産のお米づくり。特に島崎さんのように山形などの日本海側はこの異常気象の影響を大きく受けました。今回は、島崎さんが異常気象の中でお米づくりと向き合うことで得た学びや、今後の展望について伺ってきました。

おいしさのための、異常気象への対策

島崎さんの田んぼは山形県南陽市の平野部にあり、周囲を山々に囲まれている。昼夜の寒暖差が大きく、冬には豊富な雪解け水があるため、お米作りに非常に適している地域だ。しかしそんな南陽市も、昨年の7月から8月は雨がほぼ一滴も降らず、田んぼに水を掛け流しするための水が足りない状態になったそうだ。稲の穂が形成されるこの時期の生育環境が良くないと、稲は本体の生命活動をするのに精一杯で、栄養が種子であるお米にまで行き届かなくなってしまう。今回入賞した「つや姫」は、島崎さんが例外的に田植えの時期を例外的に遅らせたものだったそう。穂が形成される時期も後倒しで最も暑い時期を避けることができ、結果的においしく仕上がった、と島崎さんはご自身のお米を分析する。

今後も温暖化が進むことが予想されるため、島崎さんは令和6年産米にも不安を抱える。豪雪地帯の南陽市だが、今年は例年に比べて積雪量が少なかった。そのため、この地域のお米づくりに不可欠な雪解け水が確保できない可能性がある。また、田植えの時期については昨年の教訓を活かして、今年は全体的遅らせる予定だそう。「田植えの時期を遅らせると収穫量が減る傾向がありますが、それでもお米のおいしさを優先したいと思っています」と話す。また夏の高温に負けない元気な稲を育てるため、今年はケイ酸資材の投与量を増やしたいと考えているそうだ。ケイ酸資材は稲の根張りを良くし、高温にも耐えられる稲を育てるために重要なミネラル栄養剤のようなもの。このように、異常気象の中でご自身ができる対策は100%行っていき、今後もおいしいお米づくりを追究していきたいと話してくださった。

“みんなから愛される”お米を目指して

島崎さんは収穫するお米のおいしさに対して、強いこだわりを持つ。「自分が出荷するお米にはすべて、農園名をつけています。誰が育てたかわからないお米は一粒も販売していません。お客様の感想が自分の評価に直結する仕組みにしているので、お客様においしい、と言ってもらえることが一番嬉しいです」とお客様からの評価に覚悟を持ってお米づくりと向き合う。「私が就農した時『新潟魚沼のコシヒカリが一番おいしい』って耳にしたことがあって。それを受けて私は、新潟魚沼コシヒカリのように“みんなから愛される”おいしいお米を目指すようになりました」と振り返る。

そんな中で地元山形で登場した新品種「つや姫」。2010年に誕生して以来、“みんなから愛される”品種となったのは、当初から育て続ける島崎さんのような生産者さんの努力があったから。「品種が登場してからは、市場に出回る中でも特においしい『つや姫』を収穫したいと思いながら、これまで栽培してきました。今では本当にたくさんのお客様からご注文いただけるようになり、現在は新潟魚沼のコシヒカリに負けないくらい“みんなから愛される”品種として認知されるようになったという実感があります」と話される。

自家製有機肥料での長年の土壌づくり

島崎さん御一家は代々お米づくりを行っており、島崎さんで10代目となる。家業を継ぐ形で2005年に就農された。隣町の高畠町は有機農業の発祥の地と言われるほど、有機農業や循環型農業を昔から行っている生産者さんが多い地域。その影響も受けて島崎さんの田んぼでは、先代から自家製の有機肥料を主体にしたお米づくりを行っておられるそうだ。ずっと農薬や化学肥料を使っていない土壌は自然のあるがまま。長年の積み重ねによって育まれた、稲が健やかに育つ土壌が島崎さんの田んぼにはある。

その一方で島崎さんは、就農するまで農業資材の会社に勤めていた。ここでは農薬の使用方法なども学んだそう。「ここで学んだことで、うちの栽培方法は一般的な栽培とは違うんだなと感じました。一般的には農薬を悪者だと捉えがちですが、必ずしも悪いものじゃないということも、そこで学びました」と手間はかかってしまうけれど自分は農薬を減らす方法をあえて選択する、という考え方でお米づくりを行っていると話してくださった。田んぼの土壌からじっくり育てていくうちに、収穫したお米の香りや食味が年々良くなったとご自身も感じているそうだ。

お米生産者さんの温かい文化

栽培方法を机上で学ぶだけでなく、実際に試してみてどうだったかという生の声を聞くことは大きな学びとなる。島崎さんも生産者さん同士の情報交換を大切にされている。「不思議なことなんですけど、生産者の間には自分が見つけたおいしいお米づくりの方法や技術を、隠したりしないでオープンにする温かい文化があるんですよね」と話す。お米づくりのオフシーズンである冬には、各地で生産者さんがお互いのお米づくりを学び合う勉強会が開かれる。島崎さんも毎年、生産者さん仲間と一緒に全国の生産者さんを訪ね、お話を聞いておられるそうだ。

今回の八代目儀兵衛の「お米番付」授賞式後のトークセッション“継承”では、歴代受賞者としてお話しされた森本さんが、ご自身のお米づくりをまとめた資料を会場の生産者さんに配布する場面もあった。「資料を私もいただいたんですが、これほど内容の詰まった資料は、本来お金出さないと買えない資料だと思います」と振り返る。その後の懇親会でも初対面の生産者さんと盃を交わし、おいしいお米づくりに関する話がたくさんできたそうだ。

今年40歳を迎える島崎さん。「生産者の中ではまだ若手ですが、一般的には中間管理職と言われる年齢です。最近は自分がおいしいお米を作り続けていくことに加えて、若手に教えることができることがあれば、伝えることを意識しています」と話す。お米づくりにはたくさんの工程があるため、一人では解決できない問題に直面することが多々ある。そういった中でもこうした生産者さん同士の協力があって、毎年おいしいお米が収穫されている。

目指すは、信頼される「島崎農園のお米」

ご自身のこれからのお米づくりについて伺うと「現在は『山形県産』『つや姫』という産地銘柄を前面に出して販売していますが、将来的には『しまさき農園のお米』というブランドでお客様から選ばれることを目指しています。八代目儀兵衛のように名前にブランド力があって、みんなから信頼される生産者になることが目標です」と話してくださった。

9月7日(土)から9月8日(日)まで、米料亭 八代目儀兵衛、京都祇園と東京銀座の両店舗にて島崎真人さんの「つや姫」が提供されます。お米が収穫できるのは1年に1回。その一回のために365日お米のことを考えて収穫された島崎さんのお米。島崎さんが毎日丁寧に積み重ねた結晶を、この機会にぜひご賞味ください。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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