お米情勢に流されない、“また食べたい”を追究— 「お米番付第11回大会」優秀賞:下村宣弘さん 品種:さがびより

お米情勢に流されない、“また食べたい”を追究— 「お米番付第11回大会」優秀賞:下村宣弘さん 品種:さがびより

最終更新日:2025-03-11

食味分析計を一切使わずに「甘いお米」を発掘する異色の食味コンテストとして、11回目を迎えた「お米番付第11回大会」。今回、優秀賞の一つとして選ばれたお米は、佐賀県小城市の下村宣弘さんが育てた「さがびより」でした。

「お米番付第10回大会」から2年連続で優秀賞を受賞した、下村宣弘さん。彼がお米づくりをする上で毎年目標として掲げているのは、一度食べたお客さんから“また食べたい”と思ってもらうこと。今回は、昨今の不安定なお米情勢の中で、下村さんが抱える苦悩やそれに向けた対策、そしてその先に描く今後の計画について伺いました。

気候変動の中で“また食べたい”お米づくり

「今年は特に厳しい年でしたね」と、下村さん。秋の刈り取り直前まで雨が少なく、暑さが続いたため、特に苦労の多い年だったという。それでも、一度食べて“また食べたい”と思ってもらえるお米を収穫できるように試行錯誤。例年以上に努力をした末の今回の受賞は、本当に嬉しかったそうだ。

近年の気候変動の中で、食味にこだわるお米の生産者は品質を落とさないように、その地域や条件に合わせた対応策を考えている。稲と麦の二毛作を行う下村さんの田んぼでは、麦わらと有機肥料を活用した土づくりを行うことで、どんな気候条件でも稲が根をしっかり張ることができる環境を整えているそうだ。これに加えて昨年は、一昨年に一部の田んぼで試して良い結果が出た、乳酸菌などの微生物資材を用いた土づくりも本格的に実施したそうだ。

また、昨今は消費者の間でお米の安全性に対する関心が高まっている。下村さんは現在、減農薬栽培を行っているが、今後は無農薬栽培も目標としている。「(農薬の使用が)ゼロとイチじゃ全然違う。消費者の需要があるところにはしっかりと応えていきたいです」と、可能な限り自然に近い環境でのお米づくりを目指している。

日本全国にファンを抱える、下村さんの「さがびより」

昨年は決して良い天候とはいえなかったが、下村さんは諦めず、おいしいお米を作ることを一年間追究し続けた。その結果収穫後に、お客さんから「今年もおいしかった」と言ってもらえたことが何よりも嬉しかったそうだ。

「さがびより」は、佐賀県が誇るブランド米。大粒でしっかりとした食感が特長で、冷めても甘みが持続するのが魅力だ。特に、下村さんの「さがびより」にはファンが多く、一度購入したお客さんの多くは定期購入を希望されるほど。中には、東北や北海道といった米どころとして有名な地域から、毎年お取り寄せ注文をするお客さんもいるそうだ。

これまで「さがびより」の他に育ててきた「夢しずく」や「ヒノヒカリ」に加え、酒米や新品種の栽培にも挑戦している。「自分がつくることで、その品種が持つ新たな味の可能性を発見できるかもしれない。これからも挑戦を続けていきたいです」と笑いながら話す下村さんの姿からは、お米の可能性を自らの手で広げていくことを心から楽しんでおられることが伝わってくる。

生産者の立場から見た「令和の米騒動」

2024年に巻き起こった「令和の米騒動」。全国的なお米の在庫不足により、多くの生産者へも注文が殺到した。下村さんも例外ではなく「これまでは注文10件のうち、8~9件はリピーターさんでしたが、昨年から新規注文が一気に増えました。今は自分が食べるお米すらない状況なんですよ」と話す。

嬉しい悲鳴のように聞こえるが、そこには深刻な問題がある。これまで「おいしいから続けて買いたい」というリピーターのために価格をあまり変えず提供していた下村さん。しかし最近は新規のお客さんが増え、中でも「他のお米よりも100円でも安いお米をまとめて購入しておこう」と一度に大量購入を希望する人が目立つようになったと話す。このままでは下村さんのお米を“また食べたい”と楽しみにしてくださっていた、リピーターに提供するお米がなくなってしまうので、その分を確保するために適正価格への値上げも検討しているそうだ。「リピーターの方々の負担を考えると、一律で大幅に値上げするのも難しいなと、本当に葛藤しています」と語る。

この急激な需要増に対応するために下村さんは現在、販売方法を以前と少し変えたそうだ。新規販売を基本的には制限し、既存のお客さんに優先的に案内を届けるため、お米を送る際にメッセージアプリのリンクを記載したチラシを同梱。また、一度の購入量を10kgまでに制限してもらうよう、協力を呼びかけている。

お米情勢に流されないお米づくりを目指して

2025年に入ってもなお、お米の需要は高いまま。先の見えない情勢の中で下村さんは、“また食べたい”と言ってくださるお客さんにこれからも安定してお米を届けるため、栽培体制も見直し始めている。「お米のおいしさを維持しながら生産量を増やすために、動き始めています」と話す。

佐賀県内に100箇所、合わせて約20ヘクタールもの田んぼを持つ下村さんだが、田んぼをさらに広げることも検討中。また、減反政策の影響で他の作物を栽培していた農地も田んぼに戻すため、現在は地域の水資源の供給バランスも計算している。

収穫量を増やすと、お米のおいしさや安全性が損なわれがちだが、下村さんは最新技術を活用しながらこの課題を解決しようとしている。衛星を使った田んぼの遠隔監視システムを導入したり、アイガモロボットを活用すれば、田んぼの面積を増やすとともに、目標としている無農薬栽培も実現できる。「お米番付第10回大会」で優秀賞を受賞した福岡県朝倉市の北嶋將治さんの、大規模農業経営とおいしさ、安全性の両立を実現する姿を見て、大きな刺激を受けたそうだ。

「これからも世の中の情勢に流されない農業をしたいです。おいしいお米を作ることに変わりはないし、お客さんの期待を裏切らないように努力を続けていきたいと考えています」と、前向きに未来を見据える下村さん。

最後に「最優秀賞を取るまでは、お米番付にエントリーし続けます」と宣言。「優秀賞を取れたことは励みになりますが、まだ目指す頂点には届いていない。さらにおいしいお米をつくるため、挑戦を続けます」と力強く語った。“また食べたい”と思ってもらえるお米を目指す下村さんのお米づくりは、どのようなお米情勢の中でも続いていく。

下村さんの「さがびより」は2025年3月15日(土)から3月16日(日)まで、京都祇園と東京銀座の米料亭 八代目儀兵衛で提供されます。気候や市場の変化に立ち向かいながらも、“また食べたい”と思ってもらえるお米を追究し、2年連続「お米番付」優秀賞に輝いた下村さんのお米を、ぜひご堪能ください。

【執筆者プロフィール】

荻野 奈々果
お米ライター/栄養士
日本米穀商連合会認定ごはんマイスター

広島女学院大学栄養学科を卒業後、新卒で米卸業者に就職。その後上京し、食品飲食業界にて栄養士・マーケターとしてお米の魅力を発信する。米卸業者での社長秘書、広報、営業としてのキャリアスキルを活かし、お米を主軸に置いた日本の伝統的な食文化を見直し、そこから次世代を見据えたお米の価値を創造していくなど、その活動の幅を広げている。日本米穀商連合会の「ぽかぽかお米びより」にてお米生活コラム「NaNaKaの穂のぼのMyライフ」連載中。

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